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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百五話 師であり友である人は世に知られないまま残った(4)

「何も話すことなんかはいよ。面白くない。どこにでもあるような話だ」


 ジークムントは冷たく答えた。


「ハウザーさんみたいな人はどこにでもいるような人ではありませんよ」

カミーユは言った。


「俺の生徒としてはまあ落第だったな。だが友達ではあったよ。あいつの話し相手になってやれるのは俺ぐらいだったからな」


「へえ、それは意外ですね。あなたはハウザーさんの師であり、友であると」


「そういうことはいくらでもあるだろう」


「ええ。あいにく私は師と言える人を見いだせたことはありませんけどね。全部独学です」


 カミーユは答える。


「友ぐらいはいるだろう」


「いる……まあいるのでしょうね」


 メアリー・ストレイチーら幾人かが思い浮かんだ。しかしむこうはともかくカミーユとしては興味のない存在だったし、顔の輪郭も曖昧だ。カミーユは人の顔を見分けるのが苦手なのだ。


 そのなかではジークムントは割合見分けることが出来る方だった。


「変わってきたのは十代半ばぐらいだったな。急に身体を鍛え始めて、ガキ大将を従えるようになった。落第とは言ったが、頭が悪いわけではない。飽くまでまっとうな大人になった餓鬼と比べりゃ落第も良いところって意味だ。勉強は悪くなかったんだ。何を教えてもすぐ頭に入った。そんなもんでガキ大将から、悪党の下っ端、やがては頭目になっていったよ。そんな間も俺の所には終始やってきた。同時に医学を学び始めたときには驚いたがな」


「そうなんですよね。ハウザーさんはお医者さんでもあった」


 カミーユは思い返していた。


「悪い行為で金を集めて良い大学まで出たのに、えらくえげつない実験を繰り返したと人から聞いてはいる。本も読んだ。どうしようもないやつだと思った。おめおめ生きながらえて、今後も人殺しを続けるのか、お前はと思った」


「ジムプリチウス、さんをご存じですか」


 カミーユは話をそらした。少しつまらない方向に行きそうに思ったからだ。


「名前は。会ったことはない。スワスティカに入るもうだいぶ前から頃からハウザーとは完全に切れちまったからな。噂によれば今度立候補するんだってな。票ぐらい放り込んでやろうと思ってる」


 カミーユは思わずあなたはきっと投票できないと言おうとして黙った。さすがに口に出すことがはばかられたのだ。


 このような老人に逃げられる心配はないが。


「なるほど、本当に子供の頃の師であり友なんですね」


「だから言っただろ。一応スワスティカの党員ではあったぞ。集会には行かないから幽霊党員だったがな。今は関連の資料は全て焼却したし、燃えないものは粉々にくだいてやった。もう二度と関わりたくないからな」


 とはいえ、ジムプリチウスに一票放り込んでやろうと思っているぐらいなのだからまだ未練はあるのだろう。


カミーユは少し浅ましく感じたが、話を続けて聞いていくことにした。


「ハウザーさんに家族は居なかったんですね」


「女ならいっぱいいたがどの女とも結局心の底から仲良くならなかったな。最後の手紙ではルナ・ペルッツについて触れられてあったか? 戦争終結前になぜか一度だけきたんだよな。どこへやったんだったか」


 カミーユはその手紙を絶対に読んでみたいと思った。

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