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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百四話 死とコンパス(7)

 たくさんのシエラフィータ族の幼児が虐殺されたのになぜ表彰されたのだろうか?


 ゲオルクが干与かんよしたからではないのか?

 

  史書は理由を不明だとはしている。推測も書かれていない。


 参考文献まで事細かに読むと、当時作られたものではなく年代記が出典のようだから、かなり眉唾な情報でもあった。


「信用は出来ない。だが、ゲオルクもシロではないかもしれん」


 ズデンカは迷った。


「ズデ公らしくないね。全員犯人にしちゃえばいいだろ」


 大蟻喰が退屈そうに頬杖を突きながら言った。


「確かに。こういう政令の類いって一人だけで行われるものじゃないと思いますしね」


 メアリーが言った。


「ああ、千年前の事件はそれに近いんじゃないかとは推理したな」



 ズデンカは言った。だが今回は同工異曲ではなさそうだ。


 確かに会議は行われたのかもしれないがシエラフィータ族に恨みのある人間の主張が通った可能性は非常に高いと思われる。


「国王がやっぱり怪しいかもしれん。なんと言って最高権力者だ。決断を下せるのはやつしかいない」


「それがもう末期にはほとんど認知機能に衰えが出ていまして。何をやっても首を動かすばかり、とてもじゃないですが私個人の見解としては指示したとは思えません」


「難しいな。実に難しい」


 ズデンカは考え込んだ。そもそも何でこんな推理もどきをやらねばならなくなったのかよくわからない。


 本来はルナを襲われないように守り続けなければならないのだ。


「あの、ちょっと質問なんだけど」


 突如ジナイーダが手を上げた。


「どうした」


 ズデンカは驚いた。こういう会話の時はあまり口を挟んでこないものだと思っていたからだ。


「さっきコンパスの話してたでしょ? 王宮内ではコンパスって誰が使ってたの」


「ああ、それなら国土地理院が王宮内に設けられていて、そこでは常に使われていましたよ」


 カスパールが答えた。


「誰が統括していたんだ?」


 ズデンカは訊いた。


「あ、そうだ。国土地理院はマクシミリアンさんの支配下なんですよ。今、思い出しました」


「それだ!」


 ズデンカは叫んだ。


「マクシミリアンが国土地理院を支配下に置いていたとしたら、そこで使われるコンパスを使って虐殺を考えた可能性はある」


「う~ん、でも、根拠薄過ぎじゃないですか?」


 メアリーが口を挟んだ。


「そうだな」


 ズデンカは内心腹が立ったが受け入れるしかない。


「仮定に仮定を積み重ねてもしかたありませんよ。もうちょっと明確な証拠を探さないと」


「クソッ、せめて地図に虐殺計画の円を描いたコンパスの種類さえわかっていればな」


 ズデンカは悔しがった。


「ああ、それなら参考になりそうなはなしがあります。虐殺が行われた数日後、国土地理院につれられて行く機会があったんですが、そこに円が大きく描かれていた気がします。ずいぶんと色の濃いものでした。地理院にあるコンパス付属の鉛筆はもっと薄いんです。ならば外部のコンパスかなと思ったりします」


 カスパールは細かいことも覚えていた。


「事態はますます混迷を極めますね。これはもう犯人を見つけられるんですか。というかこういうときおもしろい言葉がありましてね。『信用できない語り手』ってやつです」


 メアリーが薄く笑みながら言った。

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