第百四話 死とコンパス(6)
「まず、大臣のマクシミリアンです。彼は国王に幼い頃から仕えていた重鎮です。一介の小姓からのし上がった立志伝中の人物でした。彼の子孫がジークフリート王国を滅亡させるんですけどね」
「なるほど、そいつならやりそうなんだな?」
ズデンカは犯人にしようとした。
「いえ、謹厳実直な人物でしたよ。国民からも人気がありました。だからこそその一族も仕え続けられたのです」
「ケッ、またも容疑者から外れるのかよ」
「裏の顔は知りませんけどね。私はたまに話をしたぐらいで、たいして踏み込めなくて、当たり障りのない世間話ばかりでした」
「他にはいねえのか?」
「武官のカールあたりならあり得そうですね。多くの戦争で武勲を上げた人物です。かなりの強硬派で、若かったためフランツ三世の次の次の王の時代にも活躍していましたよ」
「なるほど、そいつならシエラフィータ族の虐殺を企てそうだな」
ズデンカは考え込んだ。
「ただ少し問題が……ゲオルクは母方がシエラフィータ族なんですよ」
「なんだと?」
「迫害されてきたシエラフィータ族ですが、意外と政治の表に出てきたことも何度かありまして」
「私ちゃんの国では首相になったものもいますよ」
メアリーが付け加えた。
「なら確かに同胞を殺すというのはおかしいな……いや、そんなやつもいる。ゲオルクの態度はどうだった」
「そうですね。前後の時期は軍務で王都――今のミュノーナですが――を離れていたように思います」
「なるほど、アリバイがあるわけだ。そりゃ犯人からは外れるわな」
「いや、そうとも限らんぞ。同胞に憎まれないようにあえて離れた可能性だってある。俺は仲間を売る同胞なんてたくさん見てきたさ」
今度はフランツが言った。
「ありえる話だな。仲間を売らないとは限らない。特にお偉方として出世しようとすればな」
ズデンカは一瞬アデーレ・シュニッツラーを思い浮かべていた。アデーレはシエラレオーネ政府と関わりがないこともないし、割合同胞には優しい方だ。
「大臣の次官ボリスはかなりのシエラフィータ族排斥主義者でした……ですが」
「そんなやつもいたのかよ。ならもうきまりだな!」
ズデンカは喜んだ。
「しかし、容疑者からは外れます。コンパスで殺害が計画された頃既にボリスはこの世の人ではなかったのです」
カスパールは残念そうに告げた。
「なんだと?」
「突然心臓発作で亡くなったんですよ。後世、毒殺とも言われてますがあれは病気でしょうね。かなり太っていましたから」
「早い時点で計画して、誰かが引き継いだってのはどうでしょう?」
メアリーも推理に参加してきた。
「その可能性もあるな」
「会合がいつあったのか私にはわかりませんから、もしかしたら……でもはっきりとはわかりません」
「結局曖昧模糊としてやがるな」
ズデンカは本を目を皿のようにしながら読み込んでいった。
すると、おもしろい記録が見つかった。ゲオルクが王の没後マクシミリアンから表彰されたと言うのだ。
その理由というのがまた奇妙だった。
シエラフィータ族を代表して、英雄としてと言うのだった。
――あからさまだな。
ズデンカは怪しんだ。




