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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百四話 死とコンパス(3)

「お勉強か。大したもんだな」


 ズデンカは皮肉を言った。


「そりゃ猟人をやる以上、どれほど迫害されてきて来たか虐殺されてきたか、頭にちゃんと入れなきゃいけないからな。まあ当然のことだ。別にお勉強だとは思っちゃいねえよ」


 フランツは答えた。


「学んだことはあったか?」


「机上の空論だけじゃな。実際に迫害された人に話を聞いた方がいい」


 フランツが行った。


「なんだ、お前もルナみたいなことをしてるのか」


「いや……講義や実地研修のとき訊いたぐらいだ」


「なんだ、それじゃあ机上の空論を馬鹿にできんわけだ」


 ズデンカは冷笑した。


「まあいずれやろうと思ってるさ。余生があったらな」


「余生?」


「俺はスワスティカの猟人だ。危険な連中は全員葬る。裁きを受けさせるべき……という考えのやつもいるが、俺はそれには同意できない。殺せるときに殺す。それが全部終わった後で、もし生きられる機会があったら――それを『余生』と呼びたい」


「また物騒なやつが」


 大蟻喰はニヤリと笑った。


 こちらも目を覚ましたのかメアリーもつられて笑っていた。


「気が早いですよ。スワスティカ残党なんて簡単に消えやしません。見果てぬ夢ってやつですね」


 メアリーが言った。


「今後、十年以上はかかるだろうな」


 フランツは答えた。


「あたしにとったら十年なんざすぐだがよ、ルナにとっては長いな」


 ズデンカはやはりルナを基準に考えてしまう。


「それまでに死んだらそれまでのことだ」


 フランツは言った。


「死ぬ可能性のほうが高そうですね。まあ私ちゃんは案外早いかも知れません」


「殺しても死ななそうだがな」


 フランツは笑った。それで一座はにこやかな雰囲気になった。


「お前らを守ってやる余裕はあたしにはないぞ」


 ズデンカは言った。


「それは我がやる」


 犬狼神ファキイルだった。


 元の姿に戻り、車内に残っていた襲撃者の遺骸の掃除に専念していたので、今までは一切会話に加わってこなかった。


 元から口数は少ないが。


「お前にやらせるわけにはいかない」


 フランツは断った。


「これまでお前に頼ってばかりだった。今回だってそうだ。お前がいなければあいつに爆音で殺されていた」


 ズデンカはそれには責任を感じた。本来なら自分があんな襲撃者は即殺せていなければならなかったのだ。


 ルナへのダメージは予想外に大きく、今田に眠り続けている。


「守れるやつが守ったらいい」


 ファキイルは気さくにもいい加減にも聞こえるような返事をした。


「今度こそ俺が戦う」


「さっきの相手みたいに戦う力を奪ってくる敵ならどうするんです。ファキイルさんだって、先日のアモスさんの胴体に傷つけられたように不意にダメージを食らうかも知れませんね」


 メアリーは冷静に語った。


「それは……」


 フランツは言葉に詰まった。


 ズデンカも反論できない。ゴルダヴァでは先日逮捕されたニコラスに聖水で前をふさがれた。それ以前にはカスパー・ハウザー野一味によって聖剣で直りがたい傷を付けられた記憶もある。


 ズデンカは焦る気持ちを押さえながら、本に視線を移した。


 ページをめくる。


 と、奇妙な記述に行き当たった。


 「死を呼ぶコンパス」と書かれている。

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