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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百四話 死とコンパス(1)

――オルランド公国南部



「もうすっかり秋だな」


 車窓越しに黄色を増した紅葉の木々を眺めながら、綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツのメイド兼従者兼馭者だが今は馬車がない吸血鬼ヴルダラクのズデンカは呟いた。


 今は一行はオドラデクが変形したバスのなかだ。


 南部の都市シュトローブルへと向かっていた。


 車中はしーんとしている。


 誰も言葉を話す者がない。


 先ほど不意の襲撃を食らい、特に人間勢は極めて疲弊していたからだ。


 ズデンカはひたすら考えにふけった。


 あっという間の一年だった。夏はいつの間にか過ぎ去っていた。


 ゴルダヴァへの里帰りは嫌な記憶を残したし、宿敵のカスパー・ハウザーを倒した次の瞬間には新しい敵ジムプリチウスが現れた。


 争いは続いていく。


 先日アデーレ・シュニッツラーノ前ではなんとしてもルナを連れて行くといい張りはしたものの、シュトローブルについても、どうせ長くは持つまい。亦逃げ続ける日々になる。


 ズデンカはそんな退廃的な気分になった。


「いつまで続くんだ?」


 口火を切ることにした。もちろん、オドラデクに対してだ。


「まだまだですよ」


「意外に遠いな」


「そりゃ、南部も南部、端も端にある辺境の都市ですから、ほら、ちゃんと地図見てるでしょう。ズデンカさんは行ったことないんですか?」


「いやある、あるがその時は独りで徒歩だったからな。まあ一昼夜歩けばたどり付けたはずだ」


「それはあなたが化け物だからですよ。人間なら二日ぐらいはかかります」


 オドラデクはあきれて言った。


「お前も化け物のくせに」


「人の心ぐらいはわかりますぅ」


 オドラデクは口答えする。


 今話せるのは非人間勢ぐらいだ。


 ミュノーナで本来は連れて行く予定だったニコラス・スモレットがジムプリチウス暗殺未遂の容疑で逮捕されてしまい、救出に向かうことも出来ないため、急遽シュトローブル行きに方向転換したこともルナに告げられていない。


 スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツや処刑人メアリー・ストレイチーも回復はまだだ。


 ルナに伝えてもまあ頷くぐらいだろうが情報の共有はしておきたかった。それぐらいジムプリチウスが影響力を増している情報ぐらいは共有しておきたい。


「ちょっと血が吸いたくなってきたかな……移動大変で無理そうなら、別にいいけどさ」


 ジナイーダが言った。


「いや、そういうときは素直に吸わないといけない。シュトローブルについたら肉屋に直行だ。豚でも牛でも丸ごと買ってやる」


「豚かあ」


 ジナイーダは嫌そうだった。


 そう言えば以前ジナイーダは豚を殺した――ズデンカが出来なかったことをやった経験がある。


――嫌な記憶を思い出させちまったな。


 本来なら人間が一番なのだ。しかし殺させるわけにもいくまい。


「牛か羊にしよう。それならいいだろ」


「うん……まあ」


 ズデンカ自身も血がほしくなってきてはいた。最近戦い通しだ。


 ヴルダラクの始祖ピョートルから血をもらって以来、あまり渇きを覚えなくなってきてはいたが、それも限界はある。


 ここらで浴びるように飲んでみるのも悪いことではないだろう。


 ズデンカは決意した。

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