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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百三話 性格音楽(10)

「もうエンヒェンブルグには戻んなよ。ひたすらシュトローブルを目指せ。地図は確認したな? 方向を間違うんじゃねえぞ!」


「ぜんぶ頭に入れてますよ。僕は各地に糸を残しているんです。だから地理には相当詳しい方じゃないかと思いますよ?」


 確かにバスは迷うことなく動いているようだった。


「ルナ、大丈夫か。まだ顔が青いぞ」


 人間勢は爆音で相当なダメージをくらったようだ。


 親しげな顔をして近づいてきて強襲を懸けるという卑劣なやり方も答えたのだろう。


「大丈夫……」


 ルナは暗かった。暗いのも当たり前だが、しかし、ただの行きずりの人間だ。


 血があふれかえっていても、今回ばかりはうっとりとも出来る様子はないようだ。


「お前はなにも悪くない。あいつはお前の命を狙おうとした。殺されて当然だ」


 ズデンカは先回りして言っておいた。あんなろくでなしの輩に対してルナが思い惑うことが許せなかった。


「死を振りまいてばかりだね。わたしは……」


 ルナはぼそりと言った。


「何言いやがる?」


 ズデンカは焦った。


「わたしはフランツの父親を殺した。多くの人を殺した。今はそれを誰も攻めないけど、リヒテンシュタット殺しは責められている」


「フランツの親父は知らんが、リヒテンシュタットも死んで当然のやつだった。それにお前が殺したんじゃなく、手に掛けたのはあたしだ。しかももう人間の姿じゃなくなっていた」


 かつてルナとズデンカはヒルデガルト共和国のホフマンスタールにて劇作家リヒテンシュタット邸を襲撃したことがあった。過去の話だと思っていたが今だに尾を引いて、ルナの悪名を高める事件ともなっている。


 ある人物に対してリヒテンシュタットがやったことの意趣返しだったが、もちろんそんな事情は世の中には出ていない。


 ルナのみが一方的に悪い様に語れて続けている。


 ズデンカはそれも許せなかった。


「それでも殺しは殺しだよ。裁判では私が主導したと裁かれるだろう」


 ルナは小さく言った。


「お前を裁判になど行かせしねえよ!」


「……」


 ロミルダの発言からも知れたがジムプリチウスはルナを裁かせると豪語しているらしい。


どのような手段を使ってしらないが国中が的になったとしてズデンカはルナの味方でいたいと思った。


「まったく、酷い目に遭った」


 フランツは何とか起き上がれたようだった。


「これから先、もっと酷い目には何度も遭うぞ」


 ズデンカは脅すように言った。ついついフランツに対しては辛く当たってしまう。


「俺は猟人だ……ある程度は覚悟している」


 フランツは真面目だった。ズデンカは興ざめした。


 ズデンカは側を離れる。


「聞けて良かったでしょう、性格音楽」


 まだ顔面が青白いメアリーが言った。もちろんこれはきつい皮肉だ。


「性格音楽なんざ、本当にろくでもねえ」


ズデンカは座席に腰掛けて他を観察する。キミコも顔色は青白く座席に横たわっている。ジナイーダは吸血鬼としてなじんできたのか、それほど堪えてはいないようだった。


 バルトロメウスもあまり苦しそうではなかった。どうやら即席で耳栓をしていたらしく、何か詰め物を耳の穴から取り出している。


「とりあえずみんな生きているようだな」


 ズデンカは安心した。


 しかしまだ旅は長く、シュトローブルまで無事につけるかはわからない。


 ズデンカは身を引き締めた。

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