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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百三話 性格音楽(8)

 ズデンカは瞬時に動いてロミルダを蹴り上げた。しかしロミルダは座席の上に素早くまたがって広報へ退避していた。


――こいつ、そんなに動けるのか。


 自分の早さについて行けたことにズデンカは驚いていた。


「あいにく、音楽ばかりをやってきた訳じゃないんですよ」


 ロミルダは笑った。


「でも、あなた方は強い。なら、音楽を使うとしましょう」


 ロミルダは指を鳴らした。


 ものすごい、不協和音が車内にこだました。


「うあああああああああ」


 車中の皆は耳を聾され、座席にすがりついていた。


「音ってすごいですよ。やり方次第では人間の鼓膜を潰して殺すことだって出来る」


――やはりあたしの勘は正しかった。


 ズデンカももちろん耳を聾されていたが、吸血鬼のためかあまり影響力を受けない。


 ズデンカはロミルダににじり寄った。


「あなたは大丈夫かも知れませんが、ペルッツさんはどうでしょうか? 耳から血を出して死んじゃうかもしれませんよ? あ、そうだ。ジムプリチウスさんはペルッツさんを殺してはいけない、裁きを受けさせるっていってるんでしたかね? でも、別にジムプリチウスさんは私のボスでもなんでもないのでどうでもいい。思わず手が滑ってしまったとか言い訳しましょう」


 ロミルダはズデンカに笑みを向けた。



「お前だって人間だろうが!」


 ものすごい音波を全身に感じながらズデンカは言い返した。


「大変丈夫な耳栓がありましてね。あと私は読唇術も心得ています。無音でもなんてしゃべってるかもろわかりですよ」


 ロミルダは入念に獲物を罠に掛けるように、布石を打っていたのだ。気づけなかったズデンカは後から悔やんだ。


 ルナのほうを眺めると、突っ伏している。ものすごい爆音に耐えきれなくなっているのだろう。


「死んじゃいますよ? 良いんですか? 私の相手をしていてっ!」


 ロミルダは一瞬の好きにナイフでズデンカの胸を刺した。


 しかし、それでやられるズデンカではない。


「すごいすごい本当にすごい。あなたは不死者なんですね。私もそんな身体になりたい。さまざまなところを旅して回ってきてもうぼろぼろなんですよ。まあボロボロだから、何をしても怖くない。もう長くないんです、なら最後に暴れてやろうと考えた。あなたたちを殺して冥土の土産にしてやれば」


「ざっけんな!」


 大蟻喰も動いていた。ロミルダの肩に噛み付いている。


「ずっと愛用してきた薬のせいで、身体の感覚もほとんどないんです。だから痛くもかゆくもない」


 ロミルダはそう言って大蟻喰に体当たりした。


 前方座席の間に大蟻喰は投げ落とされる。


「お前は死んでいく。それならそれでいい。だがルナを巻き込むな。関係ないだろうがよ!」


「関係ないことないですよ。同じように生きているのに遥かに金持ちで楽な生活をしている。反吐が出ます。死ぬ前に殺してやろうと思ったんですよ!」


 ズデンカはルナが聞いていないことを祈った。


 逆恨みではあるが、ここまでの恨みの念を向けられていることをルナに知らせたくはない。


――思いのほか、あなたたちは嫌われているかもしれません。


 かつてカミーユ・ボレルが吐いた言葉が裏付けられるようで辛かったのだ。


――こいつは、今すぐ殺さないと。

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