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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百三話 性格音楽(7)

「ロミルダにだけばやたらと好意的だな」


ズデンカは皮肉の一つ二つぐらい言いたい気分にもなる。


「いえ、私ちゃんはもともと人にやさしいんです。ズデンカさんやミス・ペルッツには確かに少しばかり手厳しく当たってはいますけどね」


 メアリーは皮肉で応酬した。


「お前もあちこち旅してるしな」


「そうですね。つい自分の境遇と重ねてしまうのでしょう」


「……」


 意外に素直に答えたメアリーにズデンカはもう言葉を返せなかった。


「さて、これで全てでしょうか? いいえ……まだおひとかたいらっしゃいますね?」


 ロミルダは答えた。


「ぼくですよ!」


 オドラデクは車体ごとミシミシ揺らしながら言った。



「これは驚きましたね。バスが話すとは」


 ロミルダは笑った。


 しかし、余裕がある。


 旅をして変なものも多く見てきているからだろう。


 そういうところもズデンカは気にくわなかった。


 音楽は奏で始められる。


 少し不協和音を含みながら、明るく楽しい曲だ。


 やはりオドラデクの性格だ。なるほど良く把握している。


 ズデンカはなぜだが腹が立った。


「ふふん、ぼくが音楽にですか。之までにない体験ですね! ぜひ録音しておきたいものです」


 オドラデクはノリノリだ。


「レコードがあれば録音もできるんですけどね」


 ロミルダが言った。


「あ、それならわたしが幻想で出せますよ。距離を置くと時間差で消えるんですけど、近くに置いとけばしばらくは大丈夫です。都会に移動して新しくレコードを買い直しまた録音すれば残せますよ!」


 ルナが楽しそうに言った。


「そんな暇ねえだろうがよ」


 ズデンカは自然と辛辣になった。


「まあまあ旅は楽しむものだよ。君と会ったのもあちこちふらふらしてる時だったしからね」


「あたしらはシュトローブルへ急がないといけない。お前には危険が迫ってるんだ!」


 ズデンカは明るくなどなっていられない。街中の危険な雰囲気はまざまざと感じ取っていた。


「シュトローブルに入ったら音楽なんてきていられないよ! 今のうちに楽しんでおきたいのさ。そりゃわたしは昔はペラゴロとして鳴らしていたぐらいだからね!」


 この話もかつて聞いた覚えがある。


 だがズデンカはそれにすら構ってられる余裕はなかった。


「とにかくロミルダ。お前はもう降りろ。全員ぶんの音楽は奏でただろうがよ」


ズデンカは冷たく告げた。


「もう少しいたいんですけどね、あなたたちみたいに私と近い境遇の方とはなかなかお目にかかりません」


 ロミルダはそういって車内のあちこちを探し回っていた。


「似た奴なんてどこにでもいる。あたしらは急いでるんだ。お前と話し合う余裕なんてない」


 ロミルダは無視した。そしてルナの横に行く。


「ペルッツさんはほんと素晴らしい方ですね。あなたみたいな生き方を真似してみたかった。でも……私には無理そうで」


 その時ズデンカはやっと気づいた。


 ロミルダの片方の手に何かが握られていたのだ。


 『告げ口心臓』だ。


 ジムプリチウスがばらまいた悪意の増幅装置。


 ロミルダは微笑みながら、ルナの首にナイフを突き立てようとしていた。

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