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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百三話 性格音楽(4)

「そうでしょうね。ミスター・スモレットは自らの意思でジムプリチウスの暗殺を行おうとしました。それは尊重しましょうよ」


 メアリーは言った。


「だが」


 フランツはまだ不満のようだ。


「もともとあなたはいつ死ぬかわからないって状況でやってきましたよね。スワスティカ猟人とはそもそもそんなもんだという認識って話されていたじゃないですか。留置所にいるニコラスさんを助け出すことはまず困難。起訴されるでしょう。となると余計ややこしい。ならば、戻るしかないでしょう」


 メアリーはさすがに論理的だ。ニコラスの脱出の情報もいち早く入手してフランツは一言として答えることが出来なかった。


「新聞によれば群衆に殴打されたとあったがそういう連中も逮捕はされたようだし(まあすぐに出されるかもしれんが)、少なくとも拘置所にいれば命の危険はないだろう」


 ズデンカも応じる。


「……」


 フランツは黙った。


 沈黙は同意と受け取られることもある。


「戻ろうぜ。あまり長居は禁物だ」


 周囲の視線が気になる。ズデンカに気づいた通行人も何人かいたようだ。


 フランツは歩き出した。


「ステファンに挨拶しなくて良かったのか」


「いい。どうせルナのメイドだと言ったら怪しまれるだけだ」


「ルナは憎まれているんだな。ステファンもそんな悪い人ではない。だがルナは苦手だと言っていた」


「まあそうだろうな。あの性格じゃ仕方ない」


「メイドがそんなこと言っていいのか」


 フランツは少し笑いながら言った。


「いい。そんなルナを守れるのは……」


 とまで言ってズデンカは言葉をしまった。もちろん、「あたししかいない」と言おうとしたのだ。だが口に出してしまえば非常に傲慢なように思えて引っ込めたのだ。


ルナと出会ったのも結局のところ運だ。


乞われてメイドになったわけではない。それなのに自分しかいないと断言できるのか。


――あたし以外の誰でも良かったのかも知れない。ルナから直接訊いてみたことはない。だが、もし誰でも良かったなんて言葉が返ってきたら……。


 ズデンカは考え込んでしまう。


「おい、どうしたメイド? 言葉が出てこなくなったか?」


 フランツは黙っているズデンカに少しいい気になったのか煽ってくる。


「んなんじゃねえよ!」


 ズデンカはフランツの頭を軽くこづいた。


「痛え」


 おもわずフランツは叫んだ。


「ルナだったらもっと強く殴ってる」


 ズデンカは言った。


「ちょっとシュルツさん、私と歩きましょう」


 メアリーはフランツをズデンカから引き離した。


 軽く怒気が見える。


――なんだよあいつはさっきから。


 どうもメアリーはズデンカとフランツが一緒にいるのを許せないようだ。ズデンカはまるでそんな気がありもしないのに何か意味深なことであるように解釈されるのが不思議だった。

 戻るとなれば足は速くなる。


 町の中心部を素早く脱して、郊外に止められていたバスに近づいていった。


 すると、おかしなことに賑やかな音楽書き超えてくるのだ。


――誰か、いるな。


 ズデンカは警戒して立ち止まった。ルナたち一行以外の気配を敏感に感じ取ったのだった。


「ラジオあるいは蓄音機でも鳴らしてるんでしょう」


 メアリーが言う。


「しかしどこで手に入れた?」


「それはミス・ペルッツの能力を使ったんでしょう。何でもありですからね、あれは」


 しかし、なおズデンカは釈然としないのだった。


――なぜ、そんなことを?

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