第百三話 性格音楽(3)
「どうしてだ? ニコラスは仲間だろ。お前だって助けに行くってことに賛成してたじゃないか」
フランツは焦りながら言った。
「私ちゃんはミスター・スモレットをなんとしても守りたいと思ったわけではありません。ミュノーナのほうが行くべき場所だと思ったから来たまでです」
「いや、ここまで来たからには救いたい」
フランツは言い張った。
「どうやって救出するんです? 暗殺未遂という重大犯罪者です。牢を破るんですか。するとあなたが犯罪者として狙われますよ。騒ぎたくないか前言ってませんでしたっけ? 国中から追われてしまいますよ」
メアリーは理屈っぽく説明した。
「それは……だが……」
フランツは反論しようと思ったが何も反論できていなかった。
「まあ放置が賢明だろうな」
ズデンカはメアリーに従った。
「まず国に捕らえられた以上裁判を受けさせられるのを止められない」
ニコラスがどのように捕まったのかは定かではない。だが、広場でジムプリチウスの演説会を知りステファン方を抜け出していったのだろう。
「ステファンの家に行けばいいかどうかも困りものだぞ」
ズデンカは続けた。
「警察が来てるかもしれんからな」
フランツは心配そうに言った。
「あたしはまず怪しまれる。ルナのメイドっことは街中に知られてるからな」
ズデンカは答えた。
「じゃあ、私ちゃんが一走り言ってきましょうか?」
メアリーが言った。
「だな」
ズデンカは応じた。
「メアリーだけだと危険だ。俺も行く。俺もあまり顔は知られていない」
「なら、ついてきてもいいですよ」
メアリーは勝ち誇ったように微笑んだ。
「なんか腹が立つな」
フランツは渋い顔になった。
「あたしも遠巻きに見ておいてやるよ。誰もいないようなら入る」
「まあ良いでしょう。ズデンカさんが仕切らないくださるなら」
「チッ」
フランツの案内でステファン邸にたどり着いた。自動車修理工の倉庫だった。ズデンカは使った覚えがない。
誰も来ていない。
それを確認したズデンカはしばらく経っておくことにした。
フランツとメアリーがまず最初に入っていった。
しばらくするとフランツが出てきた。
「取り調べがあった。しかし、知らぬ存ぜぬを貫き通しておとがめなしだったようだ。今後も出頭するように言われてはいるらしいが……まあよかった」
フランツは安心しているようだった。
犯人を幇助した疑いが掛けられたそうだ。しかし、証拠につながるものがなにもなかったため方面になったようだ。
「ニコラスのやつ、ステファンのところには何も置いていかなかったようだ」
「ミスター・スモレットはジムプリチウスを憎んでいましたからね。なんでも、パウリスカさんと言う方と別離したのはジムプリチウスとの交戦後らしく」
「パウリスカって誰だ?」
「パウリスカ・フォルヌレ。俺と同じスワスティカ猟人だ。母方がシエラフィータ族だった」
フランツは説明した。
「なるほど、ならジムプリチウス暗殺未遂事件の動機ははっきりしてるな。操られてと言うことはなさそうだ」
ジムプリチウスが暗殺されそうになること自体考えがたいからズデンカは自作自演の可能性を疑ったのだった。