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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百二話 草迷宮(9)

  心が読める。 


 なら何もしゃべらず相手の心のなかに語り掛けるのが一番ではないか。

ズデンカはそうすることにした。


――あたしに敵意はない。今は時間もない。こんなところで迷ってはいられないねえんだ。早く出してくれ。


 答えはなかった。


「くそ、駄目じゃねえかよ。やはり戦うしかないのか」


「まあまあ、こんな時はゆっくり待ってみるのもいいでしょう」


 メルキオールが答えた。


「待ってられねえよ」


「待ってられねえのは私ちゃんだって同じですよ。こんなところ、さっさと出たい」


 メアリーがぼやいた。


「戦闘するしかないか」


 フランツは剣を抜こうとした。


「いや、まだ待て」


 ズデンカは止める。


「どうしてだ」


「まだこいつとは話を通じるよすがが残っているかもしんねえ。なぜかわからんがあたしも悪いやつって気はしねえんだ。こっちに危害を加えてくる様子もねえしな。メルキオールに洗脳されてるのかも知れねえが」


「そんな人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。それにヴルダラクに脳は……」


 メルキオールはぼやいた。


「まあ言葉のあやだ。とはいえあたしもまあ、結局は妖怪の部類だ。親近感を覚えちまうのかもな」


「なるほど、それなら私ちゃんが一切親近感を覚えないのも頷けますね。シュルツさんだってそうでしょ?」


「あ、ああ」


 フランツは力なく頷いた。


「攻撃するならあたしはとめねえがよ。全力で戦えよ?」


「ズデンカは戦わんのか?」


「ルナを狙ってくるようなら戦う」


「なんだ個人的だな」


「個人的じゃない。仕事だ。あたしはルナのメイドだ。だから守る。それだけだ」


「たいしたもんだな。俺も無駄に戦おうとは思わない。話し合えるようであれば、それに越したことはない。メアリー《こいつ》みたいな戦闘狂とは……いてて」


 フランツの脇腹はメアリーにつねられていた。


「いててててて、ここ、前ズデンカに殴られたところだぞ!」


「良かったじゃないですか。ちょうど今あなたが味方しようとしている方に殴られた部分で」


 メアリーはそっぽを向いた。


「仲良くていいな」


 ズデンカも笑った。


 緊張がほぐれたところで、ふと頭のなかでズデンカは小さな声が聞こえた気がした。


――怖い。


 たぶんこう言ってる。ズデンカの知る限りの言葉ではない。おそらくは島尾の言葉なのだ。


 しかし思念を通じての伝達のため、言葉がわからなくても理解できたのだ。


――お前、もしかして泣いてるのか。


 ズデンカはすぐに気づいた。悲しみの波動が伝わってきたからだ。


――怖いならあたしに話してくれよ。何か、少しは解決できるかも知れねえぞ。あたしができなくてもあたしの主人なら何とか出来る。これまでだってお前やお前の仲間のような連中を何度かは助けてきた……助けられないときもまああったがよ。


――助けてくれるのか?


 覚が答えた。


――ああ。出来る範囲だがな。変わりにと言っては何だがここから外には出してもらう。そうしないとあたしらは行きたいところに行くことが出来なくなる。


――この草むらの中では時間は過ぎないぞ。


 相手は答えた。


――そりゃ良いこと訊いたぜ。だが、どっちにしろあたしらは出て行く。


 ズデンカは強く返した。

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