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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百二話 草迷宮(7)

「言葉を話す小箱の購入を勧められたんだがその小箱が暴走して店主を殺したんだ。オドラデクには話すつもりだったが……」


 フランツは口ごもった。


「なんだそりゃ」


 ズデンカも言葉がなかった。


「大蟻喰はひたすら喜んでたよ」


「いかにもやつらしい」


 ズデンカはあきれた。


「まあ後からでも話してくれたのはよかった。ルナと敵対しそうな存在ではないのは助かった」


「グラフスと合流するかもしれん」


「グラフス……そう言えばお前が言ってたな……確か」


 ズデンカは聞いた。


「『仮の屋』を襲ったやつだ。お前は会ったことないか? オドラデクみたいなかたちをしている。鏡の向こうから来たらしい」


「鏡の向こうの世界? そういやファキイルの回想の時そんな話が出たような……」


「オドラデクはそこからやってきたんだ……いや、俺も行ったことはないが。だが寸前で連れて行かれそうになった……そういやあいつ、鏡の世界だと人間は生きていけないとか言ってたな。じゃあ俺もあっちに行ったら……」


 フランツはおそるおそる言った。


「言葉をしゃべる物の世界ですか。聞いたことありますよ」


 ズデンカの背中をネズミの三賢者メルキーオールとカスパールが駆け上ってきた。


「またお前らか」


「またって言わないでくださいよ。せっかく良い情報があるのに」


「さっさと言え」


「この世とはまるで逆で生物は死に絶え、無生物が栄華を極める世界が存在するって話なんですよ。鏡が両者の境目となっているって話で。オドラデクさんやグラフスさんはそこから来たのでしょう」


「んなろくでもない世界があるものなんだな」


 ズデンカは糸をたぐり続けた。


「グラフスさんは強いですよ。私ちゃんもやられかけました」


「襲撃時に会いこそしなかったが、あたしなら絶対に叩き壊してやる」


 ズデンカは意図を持っていない方の拳を固める。


 オドラデクと同等の変身能力を持っているやつなら厄介だ。


 しかも鏡の向こうの世界とかいう訳のわからない物の存在まで関わってきてズデンカは大変嫌な気分になった。


――ルナが守れねえ。


 グラフスとカミーユとジムプリチウスの結びつきはどこまでかはわからないが全員が一気に攻め寄せてきたら対処しきれなくなるかも知れない。しかも怒り狂う大衆もその後ろには尾いている。


 先のことを考えてしまうとどうしても憂鬱になるので、ズデンカは糸をたどり続けた。


 すると行き止まりになった。


 黒い影が道の奥にあった。


 いや、それ陰ではなかった。黒々とした毛並みの生き物だ。


 そいつが糸がほつれた鞠を抱えて背中を見せて座り込んでいるのだ。


――こいつは言葉が通じるやつか? どうなんだ?


 ズデンカは考えた。気づかれていないようだし、背後から襲撃することも考えたのだ。汚い手ではあるが、逃げ場がない以上、この空間の主を殺すことをためらってはいけない。


「あ、ズデンカさん殺そうとしてるでしょ。辞めた方がいいですよ、あれはサトリです。心が読めます」


 メルキオールが小声で言った。


「お前こそ心を読んだだろ」


 ズデンカも小声で返す。


「というか覚ってなんだ?」


 続けざまに訊いた。

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