第百二話 草迷宮(3)
「でも、そうしないと話が収まらないじゃないか。二手にわかれるの?」
ルナは不安そうだ。
「収める、あたしが何とか収めてやる」
ズデンカは言った。
「仕切りたがりですね。リーダーはあなたじゃない。シュルツさんが決めても良いんです」
メアリーは対抗する。
「な、なんで俺?」
フランツは焦る様子を見せた。
「ならお前がやれよ」
ズデンカはもういやになった。
――勝手に行けばいい。
「みんなでいこ、ね。だってオドラデクさんならひとっ飛びでしょ。ニコラスさんを連れ戻すだけなら、簡単でしょ」
「もうテントはいやですよ。別のものなら」
オドラデクは褒められて嫌な気はしないのか、あからさまに嬉しそうな様子を示した。
「ね、良いだろ?」
ルナがねだるようにズデンカを見つめて言う。
――メイドに媚びる主人がどこにいる。
「お前が言うなら仕方ない。だがお前はミュノーナのなかに入るな」
「え~!」
「郊外で待機していること。いいな。中は危険だ」
ジムプリチウスやカミーユだけが危険なのではない。今は一般市民すらルナにとっては危険だ。
この前ミュノーナの見晴台でルナがナイフで襲撃されたときズデンカはそれを感じた。
『告げ口心臓』とやらで情報を交換しあっているなら、ルナに悪評は多くの人に知られている。
「皆で行くならそれでもいいです。喧嘩していても良いことはない」
メアリーも矛を収めたようだった。
ズデンカはなお不満だった。すぐにでもシュトローブルに行きたいのだ。
オドラデクは目を離した隙に巨大なバスに変身していた。
「えへへん、どうよこれ? 飛行機でもいいと思ったんですよ。でもあまり見てないからこれにしてみたんです!」
自慢げに言う。
「これなら何人でも乗せそうだな」
「ボクは良いよ。歩きで行く」
大蟻喰はあくびをした。
「ゴルダヴァからこの方、いろんな車に乗せられたけど良い気分じゃなかったね」
「そういうなよ」
バルトロメウスが取りなす。
「ステラも一緒の方が良いよ」
ルナも続けた。
「ルナが言うならまあ仕方ないな」
こちらも話はまとまったようだ。
「こんなバス目立たんか?」
ズデンカは奥の席の隅にどっかと腰をかけた。ルナを真ん中に座らせる。窓側では狙撃の危険性があったからだ。
まえカスパー・ハウザーの手下にいたような銃の名手が敵にいないとも限らない。




