第百二話 草迷宮(2)
「ちょっと待て、俺らはミュノーナに戻らなきゃならない」
訊かれてもいないのに、フランツは答えた。
「なぜだ?」
ズデンカは腹を立てて言った。
「ニコラス……ニコラス・スモレットを拾いに行く。ルナは知ってるだろ。ステファンんちで預かってもらってな」
「ステファン! 久しぶりだな! 会いたい」
ズデンカはステファンを知らなかった。ルナとフランツだけが知っていて時分は知らないということになぜか嫌な感じがした。
「お前は会わない方がいい。もう二度と」
フランツは冷めた顔で言った。ズデンカはさらにいやな感じを受けたが、ある意味納得した。
ルナは嫌われているのだ。
おそらくステファンもシエラフィータ族だろうから、仲間内からも距離をとられてしまう。
それが、ルナ・ペルッツという人間だ。
「ニコラスってやつの名前は聞いたな。オドラデクが言い張っていた。仲間思いなのは良いが、全員でいくなんてことは辞めろ」
ズデンカはルナを守りたかった。だから出来るだけ人数は多い方が良い。それは前考えたとおりだ。フランツ一行にはファキイルがいる。カミーユ・ボレルやジムプリチウスの襲撃を避けねばならないのだ。
盾は出来るだけ厚い方が良い。ズデンカ自身も一番の盾になりたかったが、ファキイルは自分以上に厚い。もちろん、メアリーもフランツも飾り以上には役立つだろう。
本当を言えば、ここで戻らせたくはない。
「フランツだけでいけ」
ズデンカは言った。
「やーですよ! なんであなたに指示されないといけないんですかぁ?」
オドラデクが絡んできた。
「そうですよ。あなたは私ちゃんたちの味方ではない。行くべき場所はこちらで決めさせてもらいますよ」
メアリーが続けて応じた。
「おいおい」
けんか腰の二人にフランツはたじたじとなっていた。
「あたしはなんとしてもルナを守りたい。お前もそうだと言ったな? フランツ」
「ああ」
フランツは気まずそうに答えた。
「なら、どうしてニコラスを迎えに行く。どうせ傷ついたか疲れたかなにかだろ?」
「鋭いな。かなり疲労がたまっていたようなので休ませておいた」
「ニコラスというやつはあたしを足止めさせた。一度会ってはみたいが、人間は人間だ。疲れた人間はお荷物になる」
ズデンカは少し言い過ぎとは思ったが、ルナを守りたいがあまり口走ってしまった。
「お荷物だと! あなたのほうがお荷物じゃないですかあ……そ、そりゃまあ少し葉価値戦えるかもしれないけどぉ、ぼくらにとったらあなたはまだ他人ですよ」
オドラデクは最初激昂したがややあって、落ち着いた感じで言った。
「そりゃシュルツさんは約束したかも知れませんけど私ちゃんはしていません。独りでもミュノーナに帰りますよ」
「今回ばかりは馬鹿女に同意です! こんな言いぐさで従える訳ないですってば!」
ズデンカは困った。焦るあまりに相手の姿勢をより強硬にさせてしまった。
「一度ミュノーナに戻ろうよ」
ルナが困った表情で言った。
「やめろ。あそこにはカミーユがいる。ジムプリチウスだってきているかも知れない」
ズデンカは止めた。




