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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百二話 草迷宮(1)

オルランド公国ミュノーナ――

  

綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツとメイド兼従兼件馭者の吸血鬼ブルダラクズデンカ一行は、約束の場所へと戻った。


「おう、やっと来たか」


 スワスティカ猟人ハンターのフランツ・シュルツは少し見下すような顔でズデンカを見た。


「あ? なんだお前やる気か? またあばらを折られてえのかよ」


 ズデンカはすごんだ。


「喧嘩はやめなよ」


 夜になると虎に変身するバルトロメウスは静かに言った。


「いや、お前と喧嘩をするつもりはない。ちゃんと武器は買えた。金はありがとう。いつかは返す」


「いや、返さなくてもいい。お前に武器を買わせたのはあたしの命令だ。ホントに良い剣を買ったか? しょぼくれたやつだったら容赦しねえぞ」


 ズデンカはきっぱりと断った。


「良い剣だ」


 フランツは鞘から剣を抜き払って天高く掲げ、太陽の光を反射させた。


「よく斬れるのか」


「なんだ斬られたいのか」


「別に斬ってもいいが、服がだめになる」


 ズデンカは言った。


「い、いや、お前を斬る気はないけどよ」


 フランツは焦った。


 明らかに戸惑ったようだ。


「なんだ、斬らないのか。それならまあいいが」


 ズデンカは拍子抜けした。自分にとって斬った斬られたはありふれたことなので、今ここでフランツから練習台にされたところ出全く構わない。


 なのに相手は動揺しているようだ。


――妙なやつだ。


「シュルツさん、こんな方を斬らなくても良いんです」


 処刑人メアリー・ストレイチーがまたトゲのあるセリフを口にした。


「こんな方とは何だ?」


 ズデンカはにらんだ。このメアリーとか言うやつは前々から挑戦的だが、最近やたらと張り合ってくる機会が増えたように思う。


「こんな吸血鬼ヴルダラク、でもいいんですけどね」


 メアリーは短く付け加えた。


「フランツさぁん! また逢えましたあ!」


 オドラデクはフランツに抱きついていた。


「抱きつくな」


 フランツは引き離した。


「だってあいつら陰気でぇ! 話してても全然楽しくなかったんですよぉ!」


 ズデンカたちを方を向いて辛気くさそうな顔をしながらオドラデクは言った。


「俺たちだって相も変わらず辛気くさいが……」


 フランツは答えた。


「そんなことないですよぉ! あいつらと比べたら楽しいのなんの! やっぱりぼくはフランツさんと一緒にいなきゃ鳴らないよう運命づけられているんですう!」


 オドラデクは熱弁した。


「ところでお前らはこれからどうする。あたしはルナを連れてシュトローブルに向かう」


「シュトローブル? 何であんな辺境の地に?」


 メアリーが訊いた。


「そうじゃないとルナは守れん。要塞なら敵の侵入を防げる」


「あの方が二日と居れると思いませんけど」


メアリーはあきれた様子でルナを見た。


ルナは楽しそうに『仮の屋』を管理していたメイドのキミコに話しかけている。


「キミコも何か綺譚おはなしを知ってるでしょ」


「前話しました……先祖の故郷……島尾の昔話です」


「島尾の話じゃなくても、キミコの話で良いんだ。人生を語るだけで一つの綺譚おはなしになる!」


 ルナは力説する。


「今は話なんか聞いている暇はない。さっさとシュトローブルへ急ぐぞ」


 ズデンカは釘を刺した。

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