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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百一話 魂を漁る女(13)

「お前は飽くまで俺の味方じゃねえぞ。勝手に動いてるだけってことを忘れるな」


 ジムプリチウスは釘を刺す。


「はいはい、わかってます」


 カミーユは答えた。


「ところで、俺の質問に答えろ。なぜ、お前はルナ・ペルッツに会いたい」


「私にとって大事な存在だからです。この世の何者にも代えがたいのです。あなたにそんな存在っていますか?」


「なんだそりゃ」


 ジムプリチウスは顔を歪めた。本当によくわからないようだ。


「かわいそうに。あなたのその横のお友達は何者にも代えがたい存在じゃないんですか?」


「はあ? 男の友情はそんなキモいもんじゃねえよ。何者にも代えがたいみたいな女々しいことは思わん。死ぬのは別々だろうが、必要な時には組し、必要でないから一生かかわらん。そんな冷めたもんだ。男の友情ってのはな」


 今の女のなりでそのようなことを熱弁されても説得力はない。


「ともかく、私はルナさんを洗脳したいんです。あなたの目的――ルナさんからすべてを奪う――が完了したら抜け殻になったルナさんをください。私が美味しくいただいちゃいます!」


「構わんが」


 断られると思ったが、ジムプリチウスは案に相違して簡単に頷いた。


「本当ですか?」


 カミーユは訊いた。


「俺は嘘を吐かん」


 信じられない。これまでの嘘吐きぶりを見てしまえば、簡単に翻されるだろう。


 だが、カミーユもまた似たようなものだ。


「じゃあ、あなたは徹底的にルナさんからすべてを奪う。私もそのお手伝いをする。そして、奪った後に出涸らしとなったルナさんを私がいただく。これで話が固まりましたね?」


 カミーユは再確認した。殺すという選択肢がある人間は容易に人と交渉しない。


 早い話、殺せば解決するからだ。


 しかしジムプリチウスは殺しても死なない。今の姿は仮のものだ。実際大衆を前にして演説をしながら、今こうしてカミーユと話している。


 百面の猿。


 なるほど、なるほど。


 だからカミーユは初めて真面目に交渉してみようという気になったのだ。


「それでいい。存分にやれ。ルナ・ペルッツから全てを奪えさえすれば俺はゲームの勝者だ。敗者に興味はない。俺は商社にのみ鳴りたい」


 確かにジムプリチウスの主張はシンプルだ。だからこそ、多くの支持者を得られるのだろう。だが、えてしてこの世は複雑だ。カミーユが知っている僅かな範囲だけで


 そう断言できる。


「交渉成立ですね。これでゲームの規則が定まった」


 カミーユは手を差し出した。握手するためだ。


 しかし、ジムプリチウスは握り替えしてこなかった。


「お前だけだろ。俺はとっくの昔に定めている。ずっとそれに従ってやっている」


 疑わしい。嘘を吐かないというのがそもそも嘘だし、ジムプリチウスは自分が有利になるためなら何でもする輩だとカミーユはすでに見抜いている。


「まあいいです。それでは私はシュトローブルに向かわせていただきます。そうこうするうちぬルナさんたちが要塞に入っちゃいます」


「もし入ったのなら要塞ごとたたきつぶせ!」


 ジムプリチウスは怒鳴った。


「言われなくとも」


 そう言ってカミーユはヴェサリウスに命じ、速度を早めた。


 南へ南へ。


「ルナさん、待っててね!」


 カミーユは奇妙な笑顔を浮かべた。

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