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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百一話 魂を漁る女(11)

 移動は本当にあっという間だ。ミュノーナの外にでるまではすぐだった。


 ヴェサリウスを呼び出して飛び乗る。


「ふう、やっと落ち着いたか」


「誰が落ち着いた、だ」


 すぐ側にジムプリチウスの顔があった。


 カミーユは驚かない。ふと見ると手に握っていた『告げ口心臓』が二つに割れて、巨大な肉塊へとふくれあがり、ジムプリチウスの頭部へと変わっていたのだ。


「お前、俺の言うことを破ってばかりしているだろ。誰が殺していいと言った? あんな騒ぎを起こせば、どんなことになると思ってるんだ!」


 ジムプリチウスは怒鳴った。


 カミーユはうっとうしくなって『告げ口心臓』を宙に投げた。他にも在庫はいくらか持っているので、一つ捨ててもかまわない。


 ところがその心臓から飛び出したジムプリチウスの顔はぶくぶくと赤黒くふくれあがり、やがて人の形へ姿を変えた。演説台にいたジムプリチウスその人になったのだ。さらにもう一つそこから分岐して現れてきたのがティル・オイレンシュピーゲルと呼ばれた、ジムプリチウスの『友人』だった。


 そのままでは落下すると思いきや、同時に木の板が同時に現れ出て、ジムプリチウスとオイレンシュピーゲルを受け止める台となった。


「へえ面白い。なんなんですか。それ」


 カミーユは素直に感心した。


「『阿呆船』だ。まだまだ建造中だがな」


 ジムプリチウスは意外に親切に説明した。


「というか俺の話を聴け!」


「あなたの言うことに従う義理はないでしょう。別にあなたにも私に従う義理はない。好きなようにやればいいんです」


 何か少し幼馴染のメアリー・ストレイチーみたいなしゃべり方になった気がした。


「お前は俺の『心臓』を使っている。それを忘れんな!」


 ジムプリチウスはカミーユを指さした。


「手放してもいいんですよ。そりゃ『人獣細工』はたくさん作りましたけど」


 カミーユは念じれば自在に動かすことのできる『人獣細工』をたくさん作ってミュノーナ郊外に待機させている。


 今回の『逃走』に合わせて地味に移動を開始させており、ルナを見つけて包囲できる体制を整えている。


「……」


 ジムプリチウスはまた沈黙した。


 どうにもわからない人間だ。おそらくカミーユは攪乱役を期待されていうのだろう。しかしジムプリチウスの性格的に事細かに指示は出したくないようだ。


 ある意味リーダーになりたくないリーダーのような側面がジムプリチウスにはあるようだ。


 事実今回の演説会も少しの守衛も立たせずに行っていた。


「ていうかあっちを放置していてもいいんですか? 引く手あまたでしょう?」


 人を煽る時は本当に自分はメアリーに似てくるなとカミーユは思った。


「俺はいくらでも体をわけられる。『百顔の猿』の異名をとったのは伊達じゃない」


 ジムプリチウスは自慢げだ。根本的にあるのは自己顕示欲なのだろう。それが人よりも異常に肥大化しているだけだ。


 それなら。


 いうべき言葉は決まっている。


「さすが! 本当にジムプリチウスさんは素晴らしいですね!」



 カミーユは拍手した。


「そんな手に乗る俺じゃねえぞ!」


 しかし言葉とは裏腹にジムプリチウスは嬉しそうだ。

 

 実に面倒くさい相手だが、カミーユは仕方なしに処世術を使うことにした。

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