第百一話 魂を漁る女(5)
案の定、薬が見つかった。すぐに使う必要はないが、まあ持っておこう。
そこで思い出したのが以前ゴルダヴァでもらった麦わら帽子だ。懐を探してみると、確かにあった。
カミーユは頭にかぶる。
さて、狩りの続きだ。貧民街は殺していいようなクズが多いと考えられたがカミーユは差別をしない。
見かけた人間に襲い掛かって息の根を止め、次から次へと魂を漁る。
またたくまに十幾つも手に入れることに成功していた。
カミーユはものすごい身体能力で殺しを行い、少しも血をかぶらない。
相手の認知能力を上回る速度で移動して一気の喉をかききり、瞬発的に後退して返り血を避けることが効率的にできたのだ。
「ズデンカさんより早くルナさんの懐に忍び込めそう」
ルナは絶対に殺すつもりはない。ルナは最期までカミーユのおもちゃにならなければならないのだ。
と、時間は瞬く間に経ってしまう。時計台を見ると正午に近かった。
「ジムプリチウスさんの演説が始まっちゃう!」
妖精のディナを呼び出して血に染まったナイフを溶解させ証拠を隠滅すると、カミーユは走り出した。
脚力のほうもよほど増したのだろう。一分と経たずに移動がすんでいた、
中央広場には思った以上に人が群れていた。いや、多すぎると言っていいぐらいだ。
人、人、人、人、人。
立錐の余地もないぐらい、人があふれかえっていた。
ジムプリチウスの名前だけでこんなに集まるのかとカミーユは驚いた。
見ると、多くの人の手にカミーユが握っているものと同じもの――『告げ口心臓』が握られていた。
「みんな考えることは同じか~」
カミーユがそうつぶやいても誰も気にしない。
あれだけ殺していても誰も気づかないのだ。都市で殺人はありふれている。
カミーユは退屈した。
むしろ、警察でもとらえに来てくれた方が、新しい力を試す機会が増えるのに。
広場の中央に巨大な台がもうけられている。その上に誰かが上ってきた。
ジムプリチウスだ。
トレンチコートを身にまとった女で、不敵な笑みを絶やさず回りを睥睨している。
銃撃されてもおかしくない場所だ。
もともと実際の姿ではないのだからいくら弾丸を浴びても大丈夫なのだろうが、それを知らない大衆にとっては勇気ある行為に見えるだろう。
ジムプリチウスは俺は嘘を吐かないと言いながら、情報を小出しにしたり意図的に隠したりして、自身の印象を操作する。
しかも、普通に嘘を吐く。
ジムプリチウスの側には全身に鎧をまとった巨大な男が控えていた。
いや、男かどうかすらわからないが、少なくともかなりの手練れに違いはない。カミーユでもすぐには殺せそうもない相手に見えた。
「矢や鉄砲ぐらいならすぐはじき飛ばせそうだね」
カミーユは言った。
「お前ら、今日の良き日を迎えられて、俺はうれしい!」
ジムプリチウスは拡声器を取り出し、大声を張り上げた。
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
怒号と狂騒が巻き起こった。ジムプリチウスが少し話し出しただけでこれだ。
カミーユはこのような熱狂の渦の中に巻き込まれたことがこれまでなかったので、素直に興味深かった。




