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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百一話 魂を漁る女(4)

「ジムプリチウスさん、すごいですね。感服の至りです」


 カミーユは『告げ口心臓』に話しかける。


 返事はない。


 忙しいのかもしれない。カミーユは退屈した。


 そこでやっと、とりあえず同行者といえるのかもしれないグラフスのことを思い出した。


 『仮の屋』襲撃の際、スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツの右腕というか友達オドラデクと戦闘し、いつの間にか姿を消していた。


 退屈を紛らわす話し相手でもなるかなと思ったのだが、いないとはなんと間が悪い輩だろう。


「誰かと話してもつまらないし、こういう時は殺すしかないかも」


 カミーユはあけすけもなく言い出した。とはいえ今朝方では誰もカミーユの言葉に身を傾けるものはいない。


 すなわち孤独なものが漏らすつぶやきと同じ程度でしかないのだ。都会にいけばよくあることで、都会慣れしているカミーユとっても普通のことでしかない。


 ならば。


「通り魔しよう!」


 カミーユはまがまがしい思いを胸に抱いた。今の時間帯なら人通りも少ないし、見つかる恐れはない。


 一度やってみたいことだった。 


 カミーユは先ずそこを歩いていた老人の首をナイフでえぐった。


 老人は喉を押さえ、息も出来ずに死ぬ。


 カミーユはヴェサリウスで魂を吸い出した。


 着ている服からもわかるが、金持ちだったようだ。いくらか記憶が手に入ったが、カミーユにとってはどうでもよかった。


 人に気づかれないうちにカミーユは続きの通りに走り込んでいった。


 そして、今度は若い女の胸を突き刺した。


 返り血を浴びぬうちに、退避できた。宙返りして遠くに着地したのだ。 


 カミーユは自信の身体能力が格段に上がったことを意識した。トゥールーズにいた頃なら路面に激突して死んでいただろう。


 もとよりカミーユはどこで死んでもいいのだが、今はルナを自分のものにしたい欲望から少しは長生きしなければと思うようになっていった。


 次から次へと平凡に生きていた市民を見舞う死。


 町中は阿鼻叫喚のちまたになった。


「あ、やり過ぎちゃったかも」


 カミーユに若干焦る気持ちが生まれたのは三十分も経ってからだった。


 だが目撃者はいない。なりそうなやつはだいたい殺した。


 カミーユは町の西のごみごみした方角をめがけて一目散に走り出した。


 どうやらここは貧民街のようだ。


「おいおい姉ちゃん、こんなところで一人で来たら危ないよ。俺についてこないかい?」


 入れ墨をした巨漢が話しかけてきた。口では親切そうだが、実際は何か薬物でも飲ませようというのだろう。


 カミーユは全身の力を込めて、ナイフで両断した。


 またたくまに巨漢は真っ二つにわかれて倒れてしまう。


「すごい」


 カミーユは歓喜した。


 これまで男の力には到底かないっこないと思っていたし、実際そうだった。しかし、今カミーユは多くの魂を吸い取って、並の人間では追いつけない身体能力を得つつある。


「これなら、ズデンカさんだって、ファキイルさんだって殺せるかも!」


 神を殺すという大罪を、カミーユは一度でいいから追ってみたかった。


 カミーユは血がつかないよう注意しながら巨漢の持ち物を探した。

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