第百一話 魂を漁る女(3)
郊外の森のなかにちょうどいい樹木の幹を見つけるとごろりと横になり、すぐ寝入ってしまう。
もちろんヴェサリウスなどを表にたたせているし、カミーユは誰かが近づく気配を察知したらすぐ起きれるので、襲われる心配は少なかった。
とはいえ妖精を見れる人間は少ないので不届き者は現れてくるかもしれない。
カミーユはそれが楽しみだった。
横たわったとたん、すぐ眠りに落ちる。
三時間ぐらいたっただろうか。カミーユは目覚めた。
「あ、やっぱり」
カミーユは歓喜の声を上げた。一人の若い男が、ヴェサリウスの肋骨を胸に突き刺され、前進から血を噴き上げて死んでいた。
横たわるカミーユを狙って来たのだろう。
カミーユは男の顎先に指をやって言った。
「まんまと引っかかったね」
「うっ……」
男は何か言おうとするが、言葉にならず口から血があふれ出る。
「あなたの魂、いただいちゃうよ!」
カミーユは無造作に服をまくり上げるとヴェサリウスの尾骨を己の背中に突き刺した。
ものすごい勢いで男の魂がカミーユの体のなかに流れ込んでくる。カミーユは打ち震えた。
決して弱い男ではない。何人も殺しているようだ。とはいえカミーユほどではなかったが、数は力なりだ。
カミーユはすでに今まで殺害した人間の大半の魂を体の中へ吸収していた。
自称殺人鬼の魂もとりあえず手に入れたが、まるでカスのようで使い物にもならない。
むしろこういう偶然カミーユを犯そうとした人間の方が膂力を持ち合わせているという場合だってなきにしもあらずだ。
距離はとっていたので血はかからなかった。カミーユは血はあまり好きではないが、派手に殺すことが好きなため必然的に血はよくかかる。
最近は服を替えることも多かったので、寝起き早々大助かりなことだ。
「もう眠気もなくなっちゃった」
カミーユはあくびもせずに周りを見回した。あたりの景色が白んできている。
ジムプリチウスは演説会の時間帯を述べていたのだろうが、カミーユは聞かずに寝てしまった。
とはいえ、今の時間帯に始めるわけではない。今のうちに市中に出向けば、いずれは見つけることができるだろう。
それに『告げ口心臓』でいやでも情報は手に入る。試しに耳を傾けて見れば、正午だと言うことだ。
さまざまなデマや間違い情報もささやかれ続けているので、本当かはわからなかったが、だめで元々だ。
ジムプリチウス本人は今の時間帯は何も語っていない。
寝ているのか、移動中なのか。
市中は朝方とはいえ人の流れは増してきていた。
少し耳を傾けるとルナ・ペルッツ……ジムプリチウスという単語ばかりが聞こえる。
やはり、『仮の屋』の出火事件は大きく語られているようだった。
しかし誰もその犯人を知らないし、新聞の記事も伝えていないようだ。噂の多くはルナの自作自演だと語っていた。
屋敷には見られては困る書類などもあっただろう。あいつなら、やりかねない。ルナはそう思われているようだった。
真犯人であるカミーユは微笑んだ。ここまで話が大きくなるものか。
ジムプリチウスの作戦は大当たりだ。
つまらない事実よりも波瀾万丈の嘘を誰もが好む、それはどうも人間という生き物の習性らしい。




