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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十一話 詐欺師の楽園(15)

 頭上には幾つも鉄の管が張り巡らされ、そこには穴が開いていた。


「服を脱げ!」


 みんなその通りにした。


 わたしも急いで、ビビッシェの服を脱がせてやり、それから自分のを脱いだ。


 脇腹の接合部を皆が見るかと不安になったが、すぐ異常事態が訪れた。


 大きな音がして、シャワーから液体が噴き出されたのだ。


 時間を置かずに、阿鼻叫喚が始まった。みんな顔を歪めて目を擦り喉をかきむしりながら、うずくまりはじめた。


 そのまま地面に倒れ伏す人もいた。


 わたしもおかしくなった。顔の神経が強張ったようになって動かなくなったんだ。息も止まっていた。


 でも、とっさにビビッシェを抱き寄せていた。


 このまま死ぬって思ったね。どうせ死ぬなら、ちょっとでもビビッシェに生きていて欲しく思ったよ。


 なんで無理矢理繋げられた相手をそこまで思いやることが出来たんだろうな。


 小さかったからかな。


 絶命を予期して、わたしは太陽の下、一人で草叢を歩いているところを想起した。


 自然と浮かんできたんだよ。


 父さんと母さんがわたしを向こうで手招きしている。


 死んでしまうんだろうな。


 そう考えて、わたしは歩き出そうとした。


 でも、その時は死ななくてよかったんだ。


 ふっと身体の痛みが消えたんだ。不思議だった。心から死を覚悟したら、楽になったんだ。


 わたしは目を上げた。


 途端に震えが止まらなくなった。


 屍体、屍体、屍体。


 さっきまで命があって、話して動いていた人たちがみんな事切れている。


 折り重なって倒れている。


 シャワーから溢れる液体の噴霧に包まれて。


 つい、今し方までたくさんの屍体を火葬したはずなのに。


 平気なはずなのに。


 わたしは頭を抱えて叫んでいたよ。


 何度も叫び続けて、喉がいがらっぽくなり、咳込んだ。


 おかしくなりそうだった。


 それを嘲笑うかのように軽快な足音が耳に響いた。


 鼻が長い仮面をつけ、全身を分厚い服で覆った背の高い人影が拍手をしながら近付いて来たんだ。


「はいはい、よく出来ました」


 声でハウザーと分かった。


 わたしは答えられなかった。


「さすがに死にかけたら、力を見せざるを得なくなるんだな」


 実験動物でも見るようにあっさりと言った。そしてわたしの顎を掴んで持ち上げた。


「しかも、もう一人を助けている」


 ビビッシェのことだ。驚いて隣を見た。浅く息をしながらわたしの腕に中に沈み込んでいる。


「本来ならこれ、誰でも即死するからなぁ。俺だってこんな防護服でいかないとだめだ。それを君は何も着けずに」


 わたしは自分の足元を見た。というか見るしかなかった。周りの光景を眺め続けるのに限界が来たからだ。


 そしたら自分とビビッシェの周りだけ青い草が生えていることに気付いた。


 ここは室内だ。


 さっきまで影もかたちもなかったのに。


「君の持つ力は、これからしっかり調べていかなくちゃいけないな」


 わたしはハウザーに肩を強く持たれ、そのまま歩かされた。


 進めば進むほど、緑の下草は広がっていく。そこだけが、汚染の影響を受けないとでも言うように、新鮮さを保ったまま。


 すぐにでも気絶してしまいそうに感じながら、わたしはビビッシェの手を離さなかった。


 部屋から出てしまうと、わたしは途端にがくりと前に崩れ折れた。


 いや、後から記憶を修正しているな。実際はそこから意識がなくなったんだ。

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