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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百話 物いう小箱(8)

「おい、小箱!」


 フランツは声を張り上げる。


「なんだ」


 小箱は答える。


「まず、止まってくれ。俺はほかの連中のお前に対する攻撃を止める」


「そういってだまし討ちにするんだろ?」


 小箱は疑い深く答えた。


「そんなことはしない。メアリー、ナイフを投げるのをやめろ」


「どうして?」


 メアリーは不機嫌だ。だが、ナイフを投げる手は休めた。


「ナイフを床に投げろ」


 小箱は言った。


「どうしてですか?」


 メアリーは釈然としない。


「どうしてもだ。あいつと戦っても仕方ない。できるだけ犠牲はない方が良い」


「店長さんを殺したんでしょう」


「あいつは物――誇り高い物だ。己を馬鹿にされて腹を立てており、その恨みを果たしただけだ。俺たちが関わる必要がない」


 以前ランドルフィで必要ないのにかかわらず三剣鬼と戦いオドラデクの助けを得ながら撃破している。


「確かに……よく考えれば店長さんには何の義理もないわけですし……戦う必要性がない」


 メアリーは考え込んだ。とはいえ小箱に目をやり、いつでもナイフを投げつける用意は止めていない。


「だろ。ナイフを捨てろ」


「私ちゃんは捨てても……」


 処刑人は体にいくつもナイフを隠している。


 だからいくら捨てても代わりはあると言いたいのだろう。


「いいから」


 メアリーはナイフを投げた。


「いいだろう。話に応じてやる」


 小箱は回転を止めた。


「お前は店主を殺した。個人的な恨みからだろう。だが俺たちにお前に対する恨みはない。店主とはしょせん、金のやりとりをしただけの仲だ。友達でもなんでもない。ならお前を破壊する謂われは何もないだろ?」


「そうか。そう言われればそうだな」


 小箱は静かに応じた。


「だからここは争いを終わりにしたい。俺たちはこの店を出て行く。お前はどこへ鳴りと好きなところへいけばいい」


 ズデンカならこのあたりうまく収めることだろう。フランツは自分が治められるか自信がなかった。


「なるほど、納得した。俺にお前らと戦う必要性はない。このゴミのようなやつは殺してやらねば仕方なかったがな。そこの女の言うとおり物は壊れる。そして、死なない生き物のいることも俺は見てきた。人間とは言え見直したぞ」


 そう言うと小箱はまた回り始め、部屋の外へと滑り出していった。


「ふう、終わったのか」


 フランツはため息をついた。


「ふん、気に食わないですね」


 メアリーは腕を組んだ。


「褒められたじゃん。良かったね」


 大蟻喰は笑った。


「褒められても嬉しくありませんよ。お金も何もでないんですから」


「この世はお金ばかりじゃないだろ」


「そりゃあなたは人から奪って生きてきたから」


「キミだって奪ってきただろ。その件では誰も反論できない」


 大蟻喰は答える。


「やめとけ。また喧嘩になる。ともかく小箱が退散してくれて良かった。あんなやつにこの店に居座られたら、迷惑千万だった」


「出て行くんだから、いいじゃないですか」


「あんな速度で暴れ回られたらでるにでれないだろ」


 フランツは抗弁した。メアリーに臆病者だと言外に言われたような気がしたからだ。


「オドラデクさんが高速度で跳ね回っていようが私ちゃんは部屋の外に出れますけどね」


 その光景を想像して、フランツは吹き出してしまった。

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