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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百話 物いう小箱(7)

「何が起こった?」


 フランツは買ったばかりの剣の柄に手をかけて、奥の管理室へ飛び込んだ。


 入室禁止とあったが今の状況でそんなことを気にしていられない。


 店長が床に倒れていた。


 血が、吹き出している。みるみる床の上に出来た染みが広がっていく。


「ひゃっひゃっひゃっ、ひゃっひゃっひゃ。俺に何も出来ない? 馬鹿言いやがるな! お前を殺してやることだって出来るぜ!」


 さっきの小箱が四隅の角を床板にゆき立ててぐるぐると回転を繰り返していた。その角には血がべったりとついている。


「あの角で喉を突き破ったんだ! ふるってる!」


 大蟻喰が笑った。


 フランツは一瞬血の気が引いた。これまで多くの人間を殺してきたが、味方、いや敵意を見せず、と思っていた人間がいきなり殺されたのは初めてだったからだ。


 前、殺害したスワスティカ残党のアルトマン兄妹ですら、交戦した上で殺害している。


 しかし店長はさっきまで笑っており普通に会話していた。そんな人間がいきなり死んだのだ。


 死はいつでもどこでもやってくる。


 フランツは剣を抜いた。


「死すべき生き物が俺に刃向かうか!」


 小箱は高速で回転を始め、ジグザグに床板を切り裂きながら進んできた。


 フランツは力強く剣を振り下ろした。しかし見事に小箱に受け止められる。小ぶりながら動きが速い。


「俺は硬いぞ。あいつの売っていたなまくらじゃあ、傷一つ付けられない!」


 小箱はあざ笑いながらごろごろごろごろ駆け回る。


「ボクに触らせて!」


 しかし、大蟻喰が跳躍して小箱を押さえようとした。


「クソッ!」


 大蟻食の指を切り落としながら、しかし一瞬掴まれた小箱はなお回転を速くした。


「やるじゃん」


 斬られた指を即座に再生させながら大蟻喰は目を輝かせた。


「死なない生き物だっていますよ……物は死にこそしませんが、必ず壊れます!」


 メアリーはナイフを次々と小箱に向かって投げつける。しかし、見事回避された。


「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ。あいつは小さい体に闘争心を秘めていた。ボクならよくわかる。これまでさんざん馬鹿にされてきた鬱憤を張らしたかっただけなんだよ。あの店長、愉快で楽しいかもしれないけど、近くでからかわれる者からしたらたまったものじゃない。殺してやろうと思われてても不思議じゃないよ」


 大蟻喰は自身の指が切られているのに少しも怒っていないようだ。


「お前はどうすればこれを解決できるのか?」


 フランツは言った。ファキイルなら小箱を破壊できるだろうが、頼むわけにはいかない。


「戦う意志を示さなければ何とかなるよ。素直にごめんなさいすればいい」


 大蟻喰は言った。


「なぜ俺が謝る。謝るべき店長は死んだ」


「あいつにとっては人間なんて似たものさ。君が代表になってあげれば納得するよ。心からの謝罪だ」


「だからなぜ俺が」


 フランツは腹が立った。メアリーでも、大蟻喰でも良いではないか。バルトロメウスでも良い。


――俺ばかり嫌な目を背負わされる。


 小箱は激しく部屋の中を移動しまくりあちらこちらの破壊を続けている。

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