第百話 物いう小箱(3)
ズデンカの采配で異質な者同士が結びつけられ、武器購入をすることになった、というわけだ。だが、交わらないものは決して交わらないのだ。
さて、武器屋は街の片隅にひっそりとあった。
やはり近代戦の基本は銃器のため、剣はだんだんと廃れて行っている。武都とはいえ、街の中央部はすべて銃を扱った店ばかりだ。
それでも接近戦では使うものもいるので、街の周縁部に刀剣街が作られている。その刀剣街のなかでもさらに場末の場末にある武器屋だ。新品はもとより中古品も扱っているようだった。
「ここにしよう」
「変わってるね」
大蟻喰があざ笑うように言った。
「そもそも、武器なんかを使って戦うって考えがずいぶんださい。ボクは肉弾戦で戦えるよ」
「それはあなたが人間ではないからでしょう」
メアリーが嫌みを言った。
「ボクは人間だよ。誰よりもね」
「でも、あなたを多くの人間は人間と認めないと思いますよ。たとえば私ちゃんは」
また大蟻喰の表情が歪んだ。
「早速店内に入るぞ。お前らも続け」
フランツは動いた。とりあえず入ってしまえば、喧嘩も起こりにくいと考えたからだ。
「いらっしゃいませ」
店長が奥からでてきた。
「剣を探している。丈夫なものであれば何でもいい」
「こちらのものが一番良いですよ。もう作られて十年も経ってますので、安価で提供できます。本当に最近大ぶりな剣を買う方は少ない。短刀ばかり売れていきます」
と店長は壁に掛けてある鋭い刀身の剣を指さした。
あまり派手な剣ではなかったが、フランツは一目惚れした。
「これにする」
「毎度あり」
店長は笑顔で行った。
フランツは金を払って鞘ごと刀を購入して腰に帯びた。
「もう決まりですか。案外早かったですね。私ちゃんも短刀を見ていって良いですか?」
メアリーが訊いた。
「もちろん。短刀なら売れ行きが良いので交代も早いですよ」
店長は案内した。
「つまらん」
大蟻喰は渋い顔をしてあたりを見回していた。
フランツはメアリーを折った。あまり男女を二人だけにしておくのもよくないと思ったからだ。ルナ経由だが、気を取られている間に女性客の体を触る店主もいるという話を聞いていたからでもある。
もちろんその場合フランツを入れて三人になるわけだが。
「ふむふむ。切れ味は良さそうですね」
メアリーは刀を取り上げて注視していた。
「剣以外はないのか?」
フランツは店長に質問した。
「あります。とっておきのモノを仕入れました。言葉を喋る小箱です」
「なんだと?」
フランツは驚いた。いや、喋る糸巻き《オドラデク》を知っている以上、驚かなくてもよかったのかもしれない。しかしオドラデクのようなものが普通にこの世界にあるとはとても思えない。
――スワスティカ関係のものではないか?
嫌な予感がした。とりあえず話を詳しく聞いてみるに如くはない。
「やたらお金を積んで手に入れたものの、さすがに不気味がって買う人はいません。一つどうでしょう。格安な値段で勉強させていただきたいと思いますが……」
店長はこの機会に売ってしまいたいらしい。