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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(13)

「あ~もう疲れてきた。立ってるのきついね」


 ルナは怠そうに言った。


「ソファなら用意させるぞ」


 アデーレが焦って言った。ルナが辛そうな顔をするのが耐えられないらしい。


 もちろん、それはズデンカも同じだが。


「いや、すぐに出て行くからいい」


 ズデンカは断った。


「アデーレ、改めて感謝する。お前の助けがないとどん詰まりだった」


「いや、たいしたことが出来なくて申し訳ない。オドラデクの意見も受け入れて、ルナが出たいと言えばシュトローブルから自由に出られるようにしてくれ、とも書いておいたぞ」


「助かる」


「お前に助かると言って貰わんでもいい」


 アデーレはそう言ってずり落ちた眼鏡をスチャっと押さえた。


「あ、それかわいい」


 ルナがいきなり女児みたいなことを言い始めた。


 アデーレは顔を赤らめた。


「さあ出よう」


 ズデンカはルナの腕を引っ張った。ルナはついてくる。


「うーんソファ坐りたかったよう」


 ルナはごねた。


「子供か」


「子供だよ。永遠に子供さ」


「お前に金がなかったらどうなっていたことか」


 ズデンカは呆れた。


 一行は廊下に出る。


「ズデンカ本当にシュトローブルに行くの?」


 ジナイーダは不安そうにしていた。


「私は、ルナさまズデンカさまの行く場所には必ずお供する所存です」


 キミコは静かに言った。


「シュトローブル行ったことない。そんな田舎の町に長くいたくないよ。私こう見えて都会っ子でさ。そりゃ辺鄙なところとかも歩いたけど都会の水のほうが合うんだよ。まえズデンカたちといった田舎もひどいもんだったでしょ?」


 ズデンカはゴルダヴァのキシュで起こった陰惨な事件を思い出した。


「まあシュトローブルでも綺譚おはなしは集めるけどね。どんなところにだって綺譚おはなしは落ちている!」


 しょぼくれていたルナも、すぐに元気を取り戻したようだった。


「お前は何もしない方がいいんだが」


 ズデンカは小さく呟いた。


「わたしは綺譚蒐集者アンソロジストだと。もともと綺譚集アンソロジーってのは花束から来た言葉なんだ。だから野山を歩いて花を摘まなくちゃならない。歩かなくっちゃ」


 ルナはしゃべり立てた。


 ズデンカはその語源を何となく効いたことはあった。しかしルナの口から効いたのは初めてのことだ。


「お前の花束か。ケケッ。そりゃ笑えるな」


ズデンカは出来るだけ皮肉っぽく笑った。


「綺麗な綺麗な花束を丹精込めて作ってるつもりだよ。いろんな人にも喜んで貰ってる」


「あ、ルナの本読み始めてみたよ」


 ジナイーダがルナの『第十綺譚集』を懐から取り出した。


「あの屋敷から失敬したんだけど。いいよね?」


「もちろん! 全部焼けちゃったと思ってたから、まさか一冊残ってたとは! 死蔵されるままに終わるのかと思いきやジナという読者を獲られたなんて本当に幸せ者な本だ」


 ルナはクスリと笑いながら言った。


「まだちょっとだけだけど面白い。私が通ったことのある町とか色々載っているし」


「お前、字が読めるのか?」


 ズデンカは驚いた。


 知らず知らずのうちにジナイーダは文盲だと思っていたからだ。


「字が読めなければ、人をだませもしないよ。ママから教わったんだ」


 ジナイーダは答える。

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