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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(12)

「自信なさげですね。ズデンカさん」


 オドラデクは嘲笑の色合いを前面に出して迫ってくる。


「うるせえよ」


「いやいや、自信なかったら困るんですけど」


 オドラデクはさらにいやらしい笑みを浮かべた。


「何で困るんだよ」


 ズデンカは睨んだ。


「あなたがルナ・ペルッツの最大の楯だって言った見立ては冗談なんかじゃないんですよ」


 オドラデクは妙に声を落としていった。


「あ? あやつける気か?」


 ズデンカはなおさら腹立たしくなった。


「いえ、だってぼくまる一夜あなた方を上から観察していました」


 それは確かにそうだ。オドラデクはテントに変じて、ルナやズデンカたちを見下ろしていたはずだからだ。


「はあ、気持ち悪いやつだな。見てくんなよ」


「いやでも目に入るんですよ。で、あなたはルナさんを誰よりも気にかけていた。普通、そんな存在は滅多にいるものじゃありません。人間ってのは大概自分がかわいいんです」


「あたしは人間じゃない」


「にしても昔はそうだったでしょう。吸血鬼は人間のえげつなさを割合残している種族です。平気で人を裏切る。それはあなたもめにしてきたんじゃないですか?」


 確かにオドラデクの言うとおりだ。


 ズデンカは吸血鬼の組織『ラ・グズラ』に加盟した。


 もちろん、いやいやながらだ。


 本来は一人でやっていきたかったのに、加盟しなければこれから旅先でおそってくる可能性があったので入ったのだ。


 緩い組織ということもあり、その後は一切会合などには参加していないが、なぜかその一員であるハロスが旅についてきた。


 しかし、『仮の屋』へのカミーユの襲撃以降、どこかへ消えてしまった。


 『ラ・グズラ』から監視されているようであまり気分が良くなかったのだが、いなくなると意外に寂しい。


 いずれ戻ってくるとは思うが、追いかけている暇はなかった。


 ハロスみたいな馬鹿なやつもいればオーガスタス・ダーヴェルのように圧倒的な力でねじ伏せていくやつもいる。さらに言えば小ずるく立ち回っている奴らもいる。


 そういう部分に関しては確かに吸血鬼は人間と変わりない。


「いいやつもいるだろ。たとえばジナイーダだ」


「ズデンカ!」


 ジナイーダの顔がぱっと明るくなった。


「話を戻しますよ。あなたが頑張るしかないんです。ジムプリチウスみたいな狡猾なやつを相手にすれば鉄壁の城塞なんてひとたまりもないってわかるじゃないですか」


 オドラデクは言った。


「だろうな」


 ズデンカも結局折れた。ルナやオドラデクの言う通り、どんな堅牢な要塞も内側からひびが入ればたちまち崩壊する。


 結局ルナの安全は守られないだろう。


 しかし短期でもシュトローブルに向かう計画に狂いはない。


「アデーレ、紹介状をさっさと頼む」


「わかった」


 アデーレは便箋を取り出し、ものすごい速度で紹介状を書き上げた。


 なかなかの達筆だ。


 きちんと閉じて封蝋までする念の入れようだ。


「これを頼む」


 アデーレからズデンカは丁重に手紙を受け取った。


 思わず価値のあるものだと思ってしまったからだ。


 普段から分け隔てしないことが主義のズデンカとしては珍しいことだ。


 しかし、今回はアデーレの動きのなかに要職にあるものとしての威厳のようなものが垣間見れたから、自然と体が反応してしまったのかもしれなかった。

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