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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(10)

「待った待った待った待ったぁ」


 どたどたと駆け抜ける音が聞こえたかと思うと部屋の中にオドラデクがなだれ込んできた。


「うるさい奴だ。どうやって警衛を撒いてきた?」


 ズデンカは注意した。


「企業秘密です!」


 オドラデクは答えた。


 まあ聞くまでもなく理由はわかった。オドラデクは何にでも変身できるのだ。


 目に見えにくいものに姿を変えてすたこらさっさしたのだろう。


「こいつは誰だ?」


 アデーレは警戒心を漲らせながら訊いた。


「フランツの友達だ。それなら通りが良いか? 名前はオドラデク」


「フランツのか。それなら信用できるな」


 アデーレはほっとしたようだった。


――そんなにあいつ信頼されてるのか?


 ズデンカは少し嫌な気分になった。ずいぶん長いつきあいだが、全然信用されない自分と比べて、フランツはずいぶん好待遇だ。


 ルナと関わる人間は例外に嫉妬深いが、それ以外の輩についてはあまり人と比べてどうだこうだ気にしないズデンカでも、これははっきり不快に感じた。


「じゃあ、警衛の人たちに命じて、ぼくを追いかけ回すのはなしにしてくださいよ」


「手配する」


 アデーレは手短に言った。


「それで、フランツは元気か?」


「ええええ、元気も元気ですよ。ぼくらとは別行動で町で買い物です。ニコラスさん、ミュノーナにおいて来ちゃったんで、本当は連れ戻さないといけないんですけどね」


 ニコラス・スモレットのことだろう。フランツと同じくスワスティカ猟人だ。


 ズデンカはゴルダヴァで聖水を投げつけたやつだとあたりを付けていた。


 そのせいでズデンカは身動き出来なくなり、もうそのときは本来の人格を露わにしていたカミーユの助言で何とか切り抜けられたのだ。


――なかなかの手練れだな。


 だがズデンカはむしろ一回話してみたいぐらいの気分になっていた。


 基本的に強者であるズデンカは自身が負かされると相手にかえって興味を持ったりするのだ。


 学べるものがあればできるだけ学びたい。それは確実にルナを守ることにつながる。


「後であたしが何とかしてやる。そいつは誰も狙って何回ねえから、襲われることもないだろう」


「スワスティカ猟人は憎まれてますからねえ。フランツさんと旅してきてこれまで幾度危ない目にあったことか」


 オドラデクは腕を組んで渋い顔立ちになった。


「お前は死なねえだろうがよ」


「死にはしないけど酷い目には遭うんですー! ふん!」


「それで、お前は何か言いたいことがあるのか?」


 アデーレは静かに訊いた。


「ええ、ええ。ありますとも。ルナ・ペルッツみたいな人をあんな要塞に閉じ込めても三日も置いておけないでしょ、って僕は言いたいんですよ」


「オドラデクさん! 同志!」


 ルナは目を輝かせた。連れて行かれそうな状況で突如助け船が現れたので必死にすがろうとしているのだろう。


「じゃあどうやってルナを守る? 何か良いアイデアがあるのか?」


 ズデンカは食ってかかった。せっかく話がまとまりかけていたところに、とんでもないちゃぶ台返しが来たもんだ。


「逆に考えりゃ良いんです。守る必要はないんですよ」


 オドラデクは自信たっぷりに言い始めた。


「なんだと?」


 ズデンカとアデーレは同時に叫んでいた。

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