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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(9)

 シュトローブルはずいぶん辺境にある町だ。以前訪れた――そして町長殺害に関与した――ボッシュよりも田舎かもしれない。ズデンカも一度だけ行ったことがあるが、ほんとうに何もない、まあへんぴなところだ。


 だが、堅牢な陸軍の要塞がそびえ立ち、銃器火砲など南方からの攻撃に耐え抜けるだけの武装がなされている。


 アデーレはそこにルナを匿おうというのだろう。


 これは決して過剰な防衛ではない。


 ルナの安全を期すためには、そこまでする必要がある。


「えー、なんでわたしがシュトローブルに! 世界各地を旅したいのに!」


 ルナはわめいた。


「馬鹿言え。今はそんな状況か? お前は狙われている。カミーユという抜け目のないやつに。あたしだって守り切れるとは限らねえんだぞ。要塞に行けば安全だ。多くの兵士に守られていれば、まず不安はない。もちろんあたしだってお前を守るし、他の仲間だっている。それで問題ねえだろ」


「でもー! 綺譚おはなし!」


 ルナはだだっ子みたいに言った。


「そんなもん、兵士にでも訊きゃいいだろうがよ」


「それじゃあつまらないよ。私は自分の足で綺譚おはなしを訪ねて歩きたいんだ。ずっと同じ場所にいたら、退屈で死んじゃうよ!」


「お前な」


 ズデンカは張り倒してやろうかとすら一瞬思った。そんなことは出来やしないので押さえたが。


「もちろん、ルナが望むなら好きなときに出て行っていいぞ。強要はせん」


 ルナについてはあまあまなアデーレは顔をほころばせながら喋った。


「いや、ルナは動かない方がいい。何しろジムプリチウスは『告げ口心臓』なるものを持っており、多くの人間を動員できるからだ」


「『告げ口心臓』?」


 アデーレは驚いた顔で言った。


「ああ、沢山の人間どうしで、まあ何つうか――通信――とでも呼んだらいいようなことが出来るものらしい。詳しくは知らんが、ルナを襲ってきたやつが持っていた。他にいくつも持っているやつらがいるようだ」


「怪しげな道具だな。これは本部に報告しなければならない」


 アデーレはまた書き留めた。


「でも! それなら、兵士さんたちのなかにも『告げ口心臓』を持っている人はいるかもしれないよ! 要塞に逃げ込んだって、内部で殺されちゃたまらないよ!」


 ルナは必死に熱弁する。


 確かにこの主張には一理があった。


 しかし。


「だが兵士一人や二人だけならあたしが対処できる。お前は部屋にこもっていればいい」


 ズデンカは反論した。


 だからと言ってルナにあちこち旅をさせるのはあまりに愚策だと思われたからだ。


「同じところにじっとしているのは精神衛生上良くないよ! わたしは旅がしたい!」


 ルナはあくまでわがままだ。


「うーむ、困ったな。ルナの性分から言って一つところにずっと居られないのはよくわかる。だがどこまでも護衛を付けて回ることは出来ない。いくらメイドが強いとは言え――まああまり信用は出来んが――、要塞の方が遙かに安心なのは言うまでもないだろう」


 アデーレは必死に説得した。


「ぶー」


 ルナはふてくされてしまった。


 結局シュトローブルに向かうことで話はまとまりそうな感じだった。

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