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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(8)

 また、出馬したところでどれだけ票を取れるかも微妙だ。


 アデーレはあまり会話が面白くない。ユーモアに欠けており、謹直きわまる性格だ。大衆を沸かせたりすることは難しいだろう。


 そういう人間が自分を面白いと思い込んでいる場合は悲惨だが、アデーレの場合、本人もよくわかっているぶん遙かにまともだ。


――まあ今は無理強いしなくても良いか。


 ズデンカはひとまず矛を収めることにした。選挙でアデーレが当選したらルナが多少有利になるかと思っていたのだが、梃子でも動かないのなら仕方がない。


 結局はアデーレに政治的野心はないと言った己の観察が至極正しかったことを実証できた、と言うだけの話だが。


――あたし独りの力で守っていかないといけない。


 いや、本当に自分独りだけの力だろうか。現在行方不明のハロスはまあ置いておくとしても、ジナイーダ、大蟻喰、バルトロメウスらフランツやメアリーやファキイル、そしてオドラデクと言った連中の支援は多く受けてきた。またアグニシュカとエルヴィラと言った混乱のうちに離ればなれになった人々にも助けられてきた。アデーレも同じくだ。


 独りだけでここまで来たわけではない。


 自分がたいそうおごっていたような気分にズデンカはなってしまう。考え直して話を続けることにした。


「と言うか、本題に入りたい。あたしらを庇護してくれ。つまり、安全な場所で守ってくれってことだ。金は心配ない。だが、普通の設備ではルナを守り切れない。オルランドでは名前が知れ渡っているので、宿屋には安易に泊まれない。『仮の屋』の炎上の経過は話すから、支援してくれ」


「前置きは良い。メイド、まず、状況を話せ」


 アデーレは厳粛に言った。


 ズデンカは詳しく話した。


「カミーユ・ボレル? どこかで聞いたような名前だな」


 アデーレは首をかしげた。


「ああ、トゥールーズの処刑人の一族だ」


「訊いたことはある。確か跡取りが行方不明になったとか……」


「カミーユはあたしらと旅をしていたんだ……ゴルダヴァまで」


「なんだと?」


「お前も会ってるはずだぞ。紹介もした覚えがある。ラミュで」


「ああ……思い出した。お前らの連れにいたな。激務に紛れて忘れていた。そこまで危険なやつだとは思えなかったがな……」


「あたしだって思わなかった。あんなに人を殺すやつだったとは……」


 ズデンカはむなしい気分になるのを必死で押さえた。


 カミーユはずっと旅についてきてくれていた。笑い合ったこともあった。


 それがいきなり豹変して牙を剥いてきたのだ。


 ズデンカは信じたくなかった。


「ともあれ今は危険分子だ。ルナの命を狙っているとなると、予も座視してはいられない。軍医総監の立場ゆえ、あまり介入できはしないが、護衛と安全な場所の確保は絶対にしてやるからな」


 そう言ってアデーレは書類を取り出し、何か書き付け始めた。


「とりあえず、オルランド南部のシュトローブルまで送ってやる。あそこは陸軍の訓練が行われている場所だ。いくらカミーユ・ボレルが凶暴な人間でも、屈強な兵たちに守られたルナを攻めるのは難しいだろう。今紹介状を書く、待ってろ」


「感謝する」


 ズデンカは言った。

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