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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(7)

 階段を上り、軍医総監執務室を目指した。


 ズデンカはドアを軽くこつんと一回だけノックした。


 あまり礼儀などは考えないため、三回叩いたりなどはしないようにしている。


 礼儀のなっていないメイドだと言われることは気にも留めない。そもそも礼儀のちゃんとしたメイドであればルナに従って世界各地を旅したりなどはしないのだ。


「ルナ・ペルッツだ」


「入れ」


 アデーレの声が答えた。


「大変まずいぞ。ルナ」


 部屋に入るなり、アデーレはとても暗い顔になって言った。


「え、どうしたの? 何かあったの?」


 ルナはきょとんとして訊いた。


「新聞にでかでかと載っているぞ。ルナ・ペルッツ氏の自宅が炎上! ペルッツ氏の消息は不明、遺体は発見されず。有象無象の噂が、町では広がっている。人の口に戸は立てられないからな」


 アデーレはずり落ちる眼鏡をただした。


「いいじゃないか。別に私は気にしてないけどね」


「今、お前は人殺しだと疑われてるんだぞ? それがわからんのか」


 アデーレは顔を赤くして言った。


「ズデンカ。お前も前会ったときはルナが、リヒテンシュタット殺害に関わってないと断言しただろうが」


「おいそれは秘密だっただろ」


 ズデンカは焦った。


 もう大分前のことだ。ラミュでアデーレと別れたとき、ルナには言わないと約束した上で離れたはずだ。


 実際には秘密とまで言ったわけではなく、何となくルナには言わない雰囲気になっていただけなのだが、ズデンカはルナを守りたいがためについ口走ってしまった。


「もう今更黙っていられるか。知らないやつはいない。それにボッシュの町長を殺害した疑惑まで広がっている。どちらも名士だ。オルランド、ヒルデガルト両国で刑事罰をルナに受けさせろと言う声ばかりだ」


「……」


 ズデンカは黙った。


「ああ、わたしは両方とも殺害に関わったよ。だから、刑事罰を受けるのは仕方ないことだ」


 ルナはあっさりと答えた。


 アデーレは絶望的な表情になった。


「やはりか……だが……」


 とアデーレは顔を歪ませた。


「予は絶対にルナを裁かせない。少なくとも町長の殺害はなにも証拠はないんだ。だから絶対に何も警察には言うな。黙っていろ」


 ルナは何も答えなかった。 


 ただ表情だけは曇っている。


「そうだ。お前は何もいう必要はない。黙っていろ」


 ズデンカもものすごい勢いで言った。


 ジナイーダとキミコも静かに黙っている。


「選挙の件はどうすんだ。お前は出るのか? ルナを迫害するようなやつが国務大臣になったらどうするんだ」


 ズデンカは話題を変えることにした。殺人の話題はルナの心をくすませると判断したためだ。


「まさか、そんなことはあるまい。この国の国民がそこまで馬鹿とは思われないし、予は政治にはあまり興味がなくてな」


「お前を支持しているやつらも結構いるみたいだぜ」


 ズデンカは腹立たしく思った。


「だが、予は政治に向かん。まず人が良い。すぐに瞞される。かってに担がれて投げ出されるのがオチだ。そんなばかげたことはやらない方が良いに決まっているだろ?」


「自分で言うなよ」


 ズデンカは呆れた。だが反面、その自己観察は正しいと思っていた。


 アデーレはお人好しだ。今回の件もそうだし、前もルナにほだされそうになっていた。


 軍医としては優秀かもしれないが政治的な力量は薄い。それでも陸軍内の政治闘争を勝ち抜いてきたのだから、それなりには出来るのだろうが、それと国政ではまた話が違う。

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