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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十九話 うろんな客(5)

「それがなかなか決まらないそうですよ。与党国民党の党首が前国務大臣のヴァイスだったんですよね。だからそれを失ったら、なかなか後釜が現れないんですよね。野党も非常に弱すぎてお話にならない」


オドラデクは面白くなさそうにかかった。


「カリスマは現れねえのか?」


 ズデンカは訊いた。


 カリスマなら政治を何とかしてくれる、そんな安易な考えからだったが、ズデンカには政治がわからぬ。だから適当に言ってみたのだった。


「今の政治体制だったら立候補に政党の後押しとかもいりますし、型破りな人間ってのはなかなか出てこないんじゃないですかねえ」


 オドラデクは言った。


「なんだつまんねえ世界だな政治ってのは」


 ズデンカは毒づいた。


「いや、政治はつまらない方がいいんですよ。政治が面白い場になったら、おかしなことになる。そう思いませんか。スワスティカの時代とか、そうだったんじゃないですか?」


 ズデンカは思い返してみた。


 宣伝相ジムプリチウスにより、政治のすべてがエンタメ化した時代――とされているがズデンカはあまり知らない。興味もなかったというのが実情だ。


 しかし、世の中はたちまちにして荒廃していき、ズデンカも肌でそれを知ることになった。


 今そのジムプリチウスが生き残り、ルナを付け狙っている。


――政治のほうで変な輩の跋扈を防いでくれなくては、困る。


 ズデンカは自分の関わり知らぬ分野ながら、急に不安感を覚え始めていた。


「まあアデーレさんが頼みの綱ですよ。動かしましょう。打開策を思いつくかもしれない。自分が立候補しないまでもね」


 オドラデクは訳知り顔に語った。


「アデーレに政治的野心はないだろう」


 ズデンカは言った。


 いままで観察した限りにおいてはだ。あくまで優秀な軍医であり、軍人だ。


 シエラフィータ族そして女性でありながら重職の位に長くあるが、それ以上を臨まない。つまり政治の場に出たり、介入したりするようなそぶりは一切見せなかった。


「でも、立たざるを得なくなる状況ってのは来るかもしれないじゃないですか。特に今後シエラフィータの民が苦境に立たされると」


 フランツはそれを横で訊いて渋い顔をしていた。シエラレオーネ政府と直接のつながりを持つフランツにとっては耳が痛い話なのだろう。


実際スワスティカが滅んだからと言って、人々のシエラフィータ族に対する嫌悪は消えるわけではなく、表面上は綺麗事に取り繕われながら、まだくすぶっているのが現状だ。


とくにルナのような金持ちは憎まれている。


ここでズデンカは考えるのを止めた。ならばなおさらこのような場所で時間を無駄にしているときではない。


「さあ、お前ら行くぞ」


 ズデンカはルナの手を取って歩き出した。


「急がなくてもいいよ。アデーレがいるかどうかもわからないしね」


 ルナは答えた。


「いて貰わなくちゃ困る。いくらでも待ってやるぞ」


「あははははは、それじゃまるでうろんな客だ」


ルナは笑った。


うろん=怪しい客だと自分たちを言いたいのかとズデンカは腹が立ったが、まあそんなことは今言ってられない。


「もうこいつ放ってこうよ。ズデンカがこんなに心配してるのにへらへら笑って」


 ジナイーダは顔をしかめた。ルナとは他称和解気味になっていたが、根本的な性格はやはり気にくわないようだ。


 もっとも気にくわないのはズデンカも同じことだった。

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