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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十一話 詐欺師の楽園(13)

「死んで欲しくない」 


 眼を合わせずに絞り出せた言葉はこれだけだった。


「同じような個体なら幾らでもいるだろう。なぜ、ビビッシェにこだわるのかなぁ?」


 わたしは答えられなかった。


「論理的な解答を導き出せない感情は不要だ」


 ハウザーは笑った。


 結局ビビッシェは殺されなかった。ハウザーが何を思ったのか知らない。だが、わたしの方に興味を持ったらしかった。


 わたしたちは親衛部に立たされて歩かされたよ。


 接合された双子がどんな風に歩くのか。これは経験した人間じゃないと分からないだろうな。


 人類の適応力は素晴らしいね。ちゃんと結合した双生児向けの服が作られているんだよ。二人はそれを着せられていた。


 ビビッシェは歩く力もなくなっているのに、後ろから肩を掴まれて廊下を進むしかなかったんだ。


 わたしは自分の右側が酷く重く感じた。


 体重のせいじゃなかっただろう。ビビッシェは驚くほど軽くなっていたのだから。


 もう一つの命が、傍で息づいているという感覚。


 それが、耐え切れないほど重かったんだ。


「なるほど、君たちにも心というものはあるようだ。これは面白い。だからわたしは君に一つの行いをやらせようと思う」


 夜だった。暗い広場に連れていかされた。


 きつい臭いがした。最初はよく分からなかったよ。何かの塊が山のように積み上げられているのだから。


 鼻を突く激しい腐臭が襲いかかってきた。死んでから、かなり時間が経っているのだろう。


「火葬してやらなきゃなぁ……」


 ハウザーが耳元で呟いた。


「火葬っていいものだ。屍体を燃やしてしまえば、影もかたちもなくなるからな。その生物が存在していたという痕跡すらなくなる。まっさらで、清潔だ。これこそ、俺たちが求めているものだ」


 火葬……。


「君が、やるんだよ」


 だが、わたしはすぐに理解したよ。


 山のように積み上げられたのは人の裸体だったんだ。


 それも、みんな死んでいた。


 無惨に殺された同胞の屍体を処理しろと言っているのだろう。


 親衛部が周りを囲んだ。


 逃げ場はなかった。


 従わざるを得なかった。


 広場の隅にある焼却炉に赤々と火が点けられる。わたしは、ビビッシェを引きずりながら、屍体を運んだよ。


 わたしたちの教えにはないけれど、世間一般で言われるように天国と地獄の狭間に煉獄があるとすれば、きっとあんな場所なんだろうな。


 ハウザーがわざわざカンテラの灯りを当てると、蝿に覆われた顔が露わになった。もはや誰のものか分からないようなものまであった。


 わたしは目を背けながら、遺体を地面に引きずりながら運んだ。


 身体の大きさも全然違うし、ビビッシェもいるしで、そうするしかなかったんだ。


 とは言え皆食事も与えられていなかったから痩せていたので、頑張れば何とかなる重さだった。


 本来ならちゃんと運んであげないといけないんだろうけど、人間としての尊厳を持って向かい合うなんてとてもしている暇はなかった。


 頭の後ろでは銃口が突き付けられていて、逃げでもしようものなら弾が発射されそうだったからだ。


 焼却炉で屍体を燃やすともくもく黒い煙が流れ出したよ。目と鼻がつーんとなって思わず顔を袖で覆ってしまった。その動きにビビッシェが震えて、呻きを漏らした。


 やがてまた新たな屍体を運ぼうとした時、ハウザーは興味深い顔をしながら、カンテラの灯りをそこに落とした。

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