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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十八話 ちっぽけなアヴァンチュール(11)

「載せない方がいい」


 ズデンカは強く主張した。


「ファキイルはあたしたちだけにこの話を伝えてくれたんだ。ほかに伝えるなんてもっての他だ。いい話ならかまわないだろう。だが、これはファキイルの罪だ」


「え~でも」


「ルナ、お前も人を殺しただろう?」


 ズデンカは静かに言った。


「うん」


 ルナはいきなりしゅんとなる。


「その殺したことを世間に広めているのがジムプリチウスだ。お前はそれを同じことをしちまうことになるが、それでいいのか?」


「よくない」


「いい子だ。手帳に残しとくのは良いが絶対の本にはするなよ」


「わかったー」


 ルナは素直だった。こういうところはかわいいとズデンカは思った。


「ファキイル、お前がはるか昔に人を殺したとか、とやかくあたしらに言える義理はない」


「だが、我は後悔している」


 老ファキイルは言った。


 若ファキイルはそれを見て、静かにほほえみながら――ファキイルは昔表情が豊かだったのだ――煙となって溶け消えていった。


「あたしだって後悔してるさ。だがもう時は戻らない。死んだ人間は帰ってこない」


 ズデンカは言った。


「そうだな」


 ファキイルは頷いた。


「そ、それにしてもファキイルにそんな過去があったとはこれまで旅してきたのに知らなかった」


「無理もないですよ。今のファキイルさんの話し方では、一年以上たっても全容を聞き出せないかもしれません……おっと、これは失礼。でも事実でしょう?」


 メルキオールが言った。


「ファキイルさんから月の悪魔の話を聞きましたよ。なかなか骨が折れました」


 メアリーが言った。


「月の悪魔? それも興味深い! ぜひ聞きたいです。時間はまだまだありますよ!」


「もういい。静かにしていたいよ」


 バルトロメウスはごろりと横になった。


「ルナはお話好きだからなあ。ぼくはじつはそれほどでもないんだよ。ルナが好きだから付き合うけど」


 大蟻喰も横になった。


「まあそういうことだ。メアリーから勝手に聞いてな」


 ズデンカもそう言い置いて、テントの入り口まで歩いて行き、外を静かにうかがった。


カミーユやヴェサリウスの接近は見えない。


「夜を越せれば良いんだがな」


 ズデンカは呟いた。


 『仮の屋』に火を放って後、カミーユがどう動くのかはわからない。


 おそらくは協働していると思われるジムプリチウスが、これを機会にルナ本人の仕業に仕立て上げる可能性は高いだろう。


 それほどルナの評判は悪くなっている。


 そんななか、家が燃えるなど格好のゴシップのネタだ。


 ジムプリチウスならずともルナに敵対している者たちはそう考えるだろう。


――ルナを絶対に守らなくてはいけない。


 ズデンカは硬く心に誓った。

 

「おい、オドラデク」

 

「なんですかぁ?」


「エンヒェンブルグは目指しているだろうな」


「あ~はいはい、そう言ってましたよね。とりあえずそっちの方角は目指してますよ。ぼくは各地に糸を残しているから、地理は得意なんです」


 オドラデクの声は自慢げに響いた。


「あー、ほんとに今度のちっぽけなアヴァンチュールは楽しかったよ。ここまで楽しい一日も他にないね!」


ルナはメアリーとフランツから話を訊きながら、楽しそうに書き留めていた。


――さっきまであんなにしょげ込んでいたのにな。


ズデンカはそれを遠くから眺めて、なんだかこちらまで楽しくなりそうだった。

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