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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十八話 ちっぽけなアヴァンチュール(10)

「まあ、何というか……お後がよろしいことで」


 メアリーが沈黙を破った。


「曰く言いがたいな」


 フランツが同調した。


「じゃあ、あいつ――グラフスの言っていた『誰よりも嫉妬深い女』っていうのは事実じゃ……」


 そこで思わずフランツは口をつぐんでいた。


 言ったらだめなことだと思ったのだろう。


「いいぞ、フランツ」


 老ファキイルが静かに言った。


「もう過ぎたことだ」


「おもしろい、本当におもしろいお話ですよ。あなたにはぜひお願いを一つだけかなえて差し上げたい。何がよろしいです」


 ルナは揉み手をしながら近づいた。


「何もない」


「それはいけない。何でもいいからひねり出してください。アモスさんと再び会いたいでもいいんですよ?」


 ルナは逆鱗に触れた。


 ファキイルがまたすさまじい表情でルナを睨んだ。


「おやおや」


 ルナは首を人形のように左右に動かしている。


「以前ファキイルはアモスを馬鹿にした海賊船の船員を骨に変えて黒洋海をさまよわせたことがあるぞ」


 いきなりフランツがズデンカの耳元に駆け寄ってつぶやいた。


「お前!」


 それを訊いて驚愕したズデンカはルナの頭を引っつかみ、後ろに退けた。


「あたしの主人が余計なことを言った。わびるから、神罰だけはくださないでくれ!」


 ズデンカは焦っていた。ファキイルはやはり緊張する相手だ。


「我は神ではない」


 ファキイルは短く言った。


 それ以上は何もしてこようとはしなかった。


――怒りは免れたか。


 ズデンカはとりあえず安心した。


「しかし、本当に激しい生き方をされていますね。ファキイルさんは、私ちゃんなんかとても真似できない。愛する人を殺すだなんて」 


 メアリーは感心したように言った。


「そうかな。観察させて貰ったところ、メアリーさんは愛する人が少しでもほかの相手に色目を使ったら、ただちに殺しそうに思ったけどな」


 黙っていたバルトロメウスが虎顔を笑みにゆがめて言った。


 メアリーの顔が真っ赤になった。


 続いてフランツまで真っ赤になった。


「観察しないでくださいよ!」


 メアリーが本気で怒鳴った。これほど激しく反応するのは珍しい。


「自然と見えてしまったんだから仕方ないだろ。俺も逃げなくちゃいけないしね」


 バルトロメウスは言った。


「本当にすばらしいですね。これまで謎だった神話の一コマがいとも鮮やかにルナさんの導きによって解明されたんですから」


 メルキオールはと言えば、素直に感心しているようだった。


「そうでしょう。今のファキイルさんの語りだと聞き出すまで何年かかったことか! わたしがいなけりゃ、ここまでの特ダネは望めないですよ!」


 ルナはそう言ってザザッと鴉の羽ペンを走らせて書き終えた。


「ファキイルさんがアモスさんを殺していたとはなんともはやショッキングですねえ。三賢者を称しながら何も知らないものだと恐れ入ります」


 メルキオールは以上にへりくだった。


「止めとけ。うちの主人をそれ以上つけあがらせるな」


 ズデンカは注意した。


「でもこの話を次の次に出る綺譚集に載せたらたぶんわたしのファンは大喜びするどころか、神話学者すら飛び上がって驚くよ。それほどこれは意義のある発見なんだよ」


「証拠がないだろ」


「ファキイルさん自身が証拠さ」


 ルナは言い張った。

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