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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十八話 ちっぽけなアヴァンチュール(7)

「わかった」


 若い? ファキイルは二つ返事で頷いた。


「昔の我を見るというのは変な気分だな」


 老いた? ファキイルは腕を組んだ。


「まあ馴れるだろう。若いときは今よりもしゃべれたからな」


 さすがに若いファキイルは言葉が出るのが早かった。幼いなりをしていても実際の年齢は隠せないのかもしれないとズデンカは思った。


 だが、その言葉はおのれにも跳ね返ってくる。


――ということはあたしも……。


 いつの間にか時代にそぐわない存在になっていくのだろうか。いや、もうなっているのかもしれない。実際言葉遣いなどは古いと言われたこともある。


――もっとたくさんジナと話して若者の感覚を身につけなけりゃならないかもしれん。


 ズデンカは反省した。


「それではぜひ詳しくお聞かせ願えますか、ファキイルさん」


 ルナは言った。


「わかった」


 肯う言葉は今と同じのようだ。若ファキイルは語り始めた。


 

 時期ははっきり覚えてはいない。もうおそらく相当は昔だ。いや、この話を体験した我は今の時間を生きている我よりもはるかに若いため、この話は現在に起こった話だと言い換えてもいいかもしれない。


 どちらでもいい。


 まだこの地上に暮らしている人類ははるかに少なく。我もまた悠々と空を飛んでいても騒がれることはなかった。


 神が普通に人間の間に交じって暮らしていた。


 人間との間に子をなす神すらいた。


 皆をあがめこそすれ、必要以上に恐れかしこまったりはしなかった。


 今の我が暮らしている時代などよりはよっぽど暮らしやすい時代だ。


 我は一日のうちに世界を何往復もしていた。いや、していると言ってもいいのかもしれんが。


 そのなかでとある小島に身を休めたときのことがある。


 岸に腰掛けて一人の男が釣りをしていた。妙だなと思ってそれを見ていると、男が話しかけてきた。


 そいつがアモスだった。


「神々のこのような場所に来るのですね」


 アモスは言った。


「我は神ではない」


 今の我でも言うのかは知らないが、我の口癖だ。


 我は神によって作られたが神自身ではない。


「そうですか。まあどちらでも良いです。この小島には釣りをしに来ているのですから」


「釣りとはなんだ? やったことがない」


 名前を聞きはしていたが実際にやったことはなかった。


「糸で魚を引き寄せることです」


 アモスはわかりやすく説明した。


「そうか。やって見せてくれ」


 アモスは言葉では答えず、我にその様子を見せた。


「我もやってみたい」


 アモスはえさの付け方を教えてくれた。それでも我は針を引っかけてしまって、なかなかうまくできなかった。


「それにしても神さまとはいえ女の子に釣りを教えるとはな……」


 アモスはそう独りごちた。


「だからどうした教えろ」


 我は急かした。


 アモスは許しを得ながら、我の背中を持ち竿の持ち方を教えてくれた。


 そのまま幾日も島の上で暮らし、我は釣りを覚えていった。


 見事に大魚をつり上げたときは心から喜んだものだ。


 我はすっかりアモスが好きになっていた。だがすぐには恋い慕う気持ちであるとは気づかなかった。時間をかけてわかっていった。

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