第九十八話 ちっぽけなアヴァンチュール(6)
「ミス・ペルッツには頼りたくないですね。私ちゃんが出します」
小さななりでも重いものも担げるファキイルの助けでようやく一息ついたメアリーは言った。
「やれやれ、わかりましたよぉ」
オドラデクは体を変形させて巨大なテントに変わった。
ズデンカは真っ先に入った。確かに絨毯が敷かれている。
「意外に細やかに気が利くやつだな」
ズデンカはどっかと腰を下ろした。
「勝手に坐るなよ、ぼけ~! 坐ってよろしいですかと許可を取りなさいよー」
オドラデクの声が響いた。
「うっせえ。使えるものを使ってるだけだ」
ズデンカは荒々しく応じた。
オドラデクの体内と考えれば薄気味悪いが、なかはそこそこ暖かい。メアリーとファキイルはフランツを横たえていた。
「このままで移動できないか?」
ズデンカはオドラデクに訊いた。
「そりゃ、できますけど。目立ちますよ」
「もう夜だ。人目を避けて臨めばできないことはない」
ズデンカは言った。
「へいへい」
全員が入りきると、ズシンズシンと音を立てテントは動き始めた。
ズデンカが外を眺めると、テントから四つ足が生えてどんどん地面を踏みしめながら動いている。
その不格好さにズデンカは思わず笑ってしまった。
「笑うな!」
オドラデクが実に心外だとでも言いたげに叫ぶ。
「車輪とかもっと良さそうなもの思いつくだろ。なんでよりにもよって人の足なんだよ」
「仕方ないでしょ。そういうイメージだったんだから!」
オドラデクもさすがに恥ずかしそうだ。
「今後怪しいやつが近づいてきたらあたしを呼べよ」
そう言い置いてズデンカはなかに戻った。
ズデンカが気づかないうちにメルキオールは絨毯の上に降りてその周りに皆が集まっていた。
ルナ、ジナイーダ、バルトロメウス、大蟻喰、メアリー、フランツ、ファキイル、キミコとずいぶん大所帯だ。
「ファキイルさん、さあ早く綺譚を訊かせてください!」
ルナは急かした。
「まあまて、俺も興味はあるが、ファキイルの話しぶりだと、一体いつ語り終えることやら」
「そうだなあ、じゃあちょっと一計を案じてみよう」
ルナは煙を吹かした。
すると、ファキイルを大きくしたような、若い女性が姿を表した。
「なんだこれは」
フランツはあからさまに驚愕していた。
「たぶん、だけどファキイルさんの昔の姿さ。今では幼いけど、昔に行くほど年を取っていくようだね。私も文献で知ってはいる。でも、あくまでファキイルさんの記憶を再現してみた」
「そういえば、そんな話訊いた覚えあるな。ゴルダヴァでだったか」
フランツは考え込んだ。
「神、およびその眷属というのものには人間の常識がまるで通じないからね。年を取るほど若返るって存在もいるのさ。で、アモスさんとファキイルさんの時はちょうどいいぐあいに重なり合ったんじゃないかな」
ルナは説明した。
「へえ、犬狼神がこんなに若く美しかったとはね」
バルトロメウスは感嘆した。
「ちょっと、鼻の下を伸ばすんじゃねえよ」
大蟻喰は不快そうに言った。
「こちらのファキイルさんなら、ちょうどいい速度で話をしてくれるんじゃないかな。ぜひ、頼もう」
ルナは言った。




