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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十八話 ちっぽけなアヴァンチュール(5)

「鼠の三賢者だな」


 ファキイルは言った。


「覚えていただいて光栄です。よろしくお願いします」


 メルキオールはぺこりと礼をした。


――ケッ、今までどこかに隠れていたのに、こんな時だけしゃしゃり出てきやがる。


ズデンカは内心悪態をついた。


「おや、ズデンカさん、お気に召さないですか?」


 メルキオールはにやりと笑った。


「お前、心を読みやがったな」


「今はつながってませんよ。でも、かつてつながっていたので、その名残で何となく気持ちが読めるのかも。すみませんねー」


 メルキオールはからからと笑った。


「……」


 ズデンカは腹が立った。


「それより、それより、ファキイルさんの話を聞けるなんて、これぐらい嬉しいことはないですよ。アモスさんとのことを聞かせてください、是非!」


 ルナは単刀直入に言った。話を集められるとなると本当に躊躇がない。


 さっきすぐには無理そうと言ったその舌の根は乾いていないのにだ。


「アモスの話は……」


 フランツはさすがにひるんでいる様子だった。神話にも語り伝えられているとおり、アモスの存在はファキイルにとって重要だ。


不用意にルナが触れるとファキイルを起こらせる可能性はある。あれほどフランツを殴ったときに怖い表情をしていたのだから、不用意な一言が起こらせるかもしれない。


「まあ、どこか落ち着ける場所を探そう。ここにずっといたら襲われそうだよ」


 ジナイーダが正論を言った。


――助かるぜ。


 ズデンカは心の中で感謝した。


「そうかあ、じゃあどこに行く?」


 大蟻喰が口を挟んだ。


「どこでもいい、広いところなら」


「救貧院とかはどうだろう。留めてもらえるかも」


 ルナが無邪気に言い出した。


「お前なあ」


 ズデンカはあきれた。ルナは金持ちだ。そんな人間が救貧院に止まりたいなどと言い出せばどのような目で見られるか、ズデンカはわかりきっている。すでに広がっているルナへの嫌悪感をよりいっそう高めることになるだろう。


 ミュノーナの民のほとんどはルナの顔をよく知っている。賞賛されるぶん、恨みが広がるのも早い。


 最近はましになってきているかもと思い始めていたルナの世間知らずな部分がまた顔を出したのだ。


「じゃあ、どこにするのさ? 教会? 公会堂? 宿屋でもいいな」


「どれも目立つ。それに屋敷が燃え上がってるなか宿で泊まったらいろいろ押しかけてこられるぞ」


 ズデンカは合理的に説き聞かせた。


「じゃあどうするんだよ」


 ルナは顔をしかめた。結局、話が聞きたくて仕方ないのだ。野宿をするとなればいやがるに違いないが、それでも移動などせず、ここで訊いていたいのだろう。


「だがこんな大人数で固まっていたら、目立つ」


 ズデンカは迷った。


「そうだ。オドラデク、お前、テントになれるだろ。もちろん絨毯付きでだ」


 フランツは思いついたように言った。


「そりゃなれますけどぉ~」


 オドラデクはきわめていやそうに言う。


「じゃあなれ。お前なら外敵が近づいたときすぐわかるし、一石二鳥だ」


「あとでなんかおごってくださいよ」


「わかったわかった」


「いや、わたしのお金でおごるよ。幸い結構持ち合わせがあってね」


 ルナがしゃしゃり出る。

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