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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十七話  妖翳記(15)

  さて、それからまた寂しい日々が始まりました。


 寝不足だった私ちゃんもたっぷり睡眠を取るようになりましたよ。夢の中でも幽霊は出て来ませんでした。


 でもある夜のこと。


 夕食を終え、寝室に退こうとしていたとき、おばさまが突然ガタガタと震え始めたではありませんか。


「幽霊だわ! 幽霊だわ!」


 思わず叫びだしたおばさまの顔は今でも忘れられません。


 もちろん冷笑的な意味でですよ。


 口をあんぐりと開け、脂汗を流しながら窓の向こうを指差してるんですから、これを笑わずに何を笑えって言うんですか。


 どうしてまた何か妄想からだろうなってたかを括ってたんです。


 そしたら。


 本当に何か妖しいかげのようなものが屋敷の周りを囲うように幾つも揺らめいているではありませんか。


 でも、私ちゃんはすぐには信じませんでした。


 どうせシーツが闇のなかに翻っているんだぐらいに考えましたよ。


「おばさま、私見てきます!」


「ひぇええええええええ」


 必死に引き止めようとするおばさまを放置して私は家の外へ出ていきました。


 実際この眼で見て確認しないことには、理外の理だろうと納得できない性分でしてね。当時からこの点では一貫してると思いますよ?


 で、影に近付いてみると驚くことに何も見えないのです。ヒースの間に揺らめいて見えたのですけどね。


「やっぱり目の錯覚か」


 そう思った瞬間。 


 ゆらり。


 今度は眼の前で白い、透き通った翳がゆらゆらと揺れていたのです。


 私は身構えました。分家の分家の生まれでも軽い体術ぐらいは身につけています。


「どなたですか?」


 返事は一切なし。


 私ちゃんは苛立ちます。


「人間でしょう。どうせ、誰がふりをしているに違いありません」


 私は答えました。


「いいえ」


 繊細かぼそい声が答えました。しかし、眼の前でゆらゆら揺れる翳は口の部分がもごもごと動いている様子など少しもなかった。 これは人ではなく幽霊であることは明瞭だったのです。


 それでも私ちゃんはあれだこれだと合理的理由を思い付きました。


 でも、眼の前で喋る翳が現れてたという厳然たる事実は認めざるをえない。


「じゃあ幽霊だとでもいうんですか?」


「わかりません」


 これじゃあ問答にもなりやしない。


  幽霊は自分を幽霊だと認められないって話も多く訊きました。死んでることだってわからない場合がある。


「私たちに害をなすつもりはありますか?」


 単刀直入に訊きました。ずばり、そこが問題なんですよ。


「ありません」


「じゃあ今すぐ立ち去ってくださいよ」


 私は要求しました。


「夜明けまで」


 やはり幽霊は消え入りそうな声で答えます。私ちゃんも流石にイライラしてきたんですが、あくまで優しく応じてやることにしました。


「じゃあ待ちますよ。ここで」


 幽霊は何も答えません。


 でも、なかなか夜の時間というものは磨り減らないものです。


 今みたいにどっかと地面に腰を下ろして一時間も二時間も待ってみたのですが幽霊が猿様子はありませんでした。


「もういい加減にしてくださいよ」 


 さすがの私ちゃんも堪忍袋の緒が切れてきたんですね。


 今なら夜明けまでぐらいなら軽く待てますけど。

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