表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1080/1238

第九十七話  妖翳記(14)

 これは戦争末期のお話です。私ちゃんは家族を亡くして、孤児になりそうだったところを、本家の方で養育されたと言いましたよね?


 その頃の話です。カミーユと出会うよりも前です。


 私は当時幼い子供でした。本家のほうの屋敷にはすぐには入れて貰えず、その別荘で生活することになったんです。


 ここが噂の幽霊屋敷だったんですよ。海辺にある、寂しい場所でした。


 都合一年はいましたね。


 同年代の子は誰もおらず退屈だし暇なので海の方ばかり眺めて潮風が吹いてきて、冬になると身を切るように寒かった。


――幽霊なんている訳ない。


  合理的な性格をしている私はそう思っていました。いやな性格って思われるかもしれませんね。

 でもこの世界を旅して回っていると理外の理っていうんでしょうか。


 不思議なできごとなんてたくさんある、いや、むしろありふれるほどありふれているってことはわかって、私ちゃんの幼い合理性こそもっとも非合理だったんだってわかってきました。


 まさか犬狼神とか変な生き物(おや、オドラデクさんのことじゃないですよ?)と旅をすることになるなんて思ってもみませんでしたからね。


 閑話休題。話を元に戻しましょう。


 要はそんな私が初めて幽霊という超自然のものを見た話です。


 その家にはドロテアおばさまがいて、この方は本家の人でした。私はその人に礼儀作法などを色々仕込まれることになりました。


 今みたいにどこに出しても恥ずかしくない淑女になったのはおばさまのお陰です。


 で、そのおばさまがいわゆる『見える』人でした。


 夜になって皆が寝静まった後、家中の食器がカチャカチャ震える。


 灯りが点いたり消えたりする。


 そんな話を訊かされたのです。


 疑り深い私ちゃんは、ずっと起きていてそんな観察してみました。


 結果。


 ぜんぜんそんなことは起きませんでした。一週間ぐらいは調べましたよ。


 食器は綺麗に置かれたままだし、灯りは消えたまま。お陰で闇のなかでもじっとしておくスキルは身につけましたけどね。 


 もちろんおばさまもグースカベッドで眠りこけています。


 本人が幽霊を見る余地なんてないのに、如何にもそう信じ込んでいます。


 しかもおばさまの顔を見るかぎり真顔そのまま。


 それは恐らく嘘ではないのでしょう。処刑人の腕は劣るとは言え、基本的には善良な方です。ドロテアおばさまは恐らく何かを見ていたのです。


 ただ単にそれを私ちゃんは観測できなかったのでしょう。


――幽霊なんかやっぱりいないんだ。


  私はそう強く信じ込むようになりました。


 しかし、それからあまり日が経たないうちにその信念はたやすく覆されることになるのです。


処刑人としての実技を積みたい私ちゃんでしたが、ドロテアおばさまは礼儀作法ばかり躾けてきます。


 結局おばさまはそう言った実技方面ではからきしだと気付いたのはかなり後になっての話。


 まあお試し期間ってやつだったんでしょうね。


 ちなみにこのお話以降、私は本家に引き取られて実技の方も学ばされました。デモそれは今は別の話なのでさらっとだけ触れておくだけに留めて置きますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ