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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十一話 詐欺師の楽園(11)

 ハウザーは、本当の意味でわたしたちを『姉妹』にしたかったんだ。


 いつものようにお菓子を与えられたら、急に眠くなった。


 どうも薬を盛られていたらしい。


――君たちは、不思議な力があるらしい。


 うつらうつらとする意識の中で、ハウザーの声が聞こえて来た。


――俺はぜひ、それを剔出してみたいんだ。どういう状況で発源するのか、詳しく知らなければならない。


――だけど、ここではもっとやってみたいことがある。君たちを『繋ぐ』んだ。


 目が覚めたのは、だいぶ経った後のことだった。 


 頭が重い。手足の感覚がおかしい。今だったら、麻酔を嗅がされたんだと分かる。


 わたしは手術台の上にいた。白衣を着たハウザーがしずかに見おろしていた。


 裸にされていた。


 隣に誰かいる。


 首を巡らして確認した。ビビッシェだった。


 顔色は青白く。まだ、瞼が重そうで、ぐったりしていた。


 だが、すぐに気付いたんだ。


 わたしのからだとビビッシェの身体が、繋げられていた。


 お腹とお腹の皮膚が大きく裂かれて後を何度も縫われた痕があった。


「ぎゃああああああああ!」


 わたしは叫びを上げていたよ。麻酔で怠かったけど、驚きの方が大きかった。だけど心が抉られるような恐怖を感じたんだね。


「生まれた時から繋がっている『双子』っているよね。なら、全く血のつながりのない二人を、後から繋いじゃえばどうなる?」


 ハウザーは無邪気に笑ったまま言った。


 まあ、その時は聞いてる余裕なんてなかったはずなので、作った記憶かも知れない。でも、やつなら言いそうなことだ。


 わたしが騒ぐのでビビッシェもうっすらと眼を開けた。


 自分の身に起こったことに理解ができなかったらしい。わたしより身体が小さいから、麻酔の効き方も強いのだろう。


「新しい『双子』だよ」


 パニックが収まるまで時間が掛かった。何しろ、一人じゃ腰を上げることもできないからだ。ビビッシェが起きて、動いてくれるようにならないとだめだった。


 「二人を繋いでみれば、何か新しいことが分かるかも知れない、観察してみよう」


 ハウザーは言った。


 他の医者たちに担架へ移されてわたしたちは実験室へ戻ることになった。


 ビビッシェが目覚めて、わたしの話を聞いて全てを理解するまでだいぶ時間が掛かった。


 これから結合された双子として生きろ、と言われて納得できる人がどれだけいるだろうか。


 でも、どっちにしろ酷い状況だってことに変わりないし、皮膚を破いたりしたら逆にどんな病気になるかも知れない。


 幸い、生まれつき暢気のんきなんでね。与えられた環境には馴染むしかないって考えた。


「やっていくしかないよ」


 わたしはビビッシェへ言い聞かせた。もう、本当の妹のように思えていた。


 だけど、ビビッシェはそうじゃなかった。


 自分の身体に衝撃を受けて、口を利かなくなってしまったのだ。


 毛布を被り、ベッドに横たえられたまましばらくはじっとしていた。


 わたしは次第にお腹も減れば本も読みたくなった。


 繋がって生まれてしまった双子には、臓器すら貸し借りし合わなければいけない者もいるという。


 わたしたちは人工の双子だったから、そんな心配はしなくて良かった。


 でも、動くのは一緒じゃなきゃダメだ。


 ビビッシェを急かして二人で起き上がった。長く歩くには時間が掛かるだろう。


 実際、ビビッシェはすぐに崩れ落ちてしまったのだから。


 奇妙な姿に変えられたことで、ビビッシェは生きる気力すら失ったようだった。 


 でもわたしはお腹が鳴って仕方なかった。もう、何時間も食べてなかったからだ。こんな時はステラに頼みたい。

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