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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十七話  妖翳記(12)

 フランツはまだメアリーから離れない。


 肩を震わせてさめざめと泣いているようだった。


「あれ? メアリーどうしたの?」


 さきほどしょんぼりしていたばかりのルナはたちまち元気そうになって訊いた。


「なんでもない。お前には関係ない」


 フランツが代わりに答えた。


「ふむ。なんでフランツが? 気になっちゃうな」


 ルナは口元に指をやって左右に頭を動かした。


「疲れてるんだ」


 フランツは言った。


「それはフランツもだろー?」


 ルナはますます興味津々だった。


「俺もだがメアリーは煙を吸い込んだんだよ」


 これは嘘ではなかった。


「そっかー」


 ルナはくるりと回転し、あたりの様子を眺めていた。


 冷静になって考えれば、ここは『仮の屋』の敷地からだいぶ出た場所にある林のようだ。


 幸いカミーユにはまだ見つかっていない。


「とりあえず、奥に入るぞ」


フランツはメアリーを抱きかかえたまま移動した。


「ずっと一緒にいるね。変なのー?」


「そう言えばジナイーダはいるか? 流石に気が回らなかった……」


 フランツは思い返して口惜しい思いをした。


「いや、いない。屋敷がごたつきだした当たりでいつの間にか姿を消していた」


 バルトロメウスは言った。


「ズデンカのところヘ行ったのか?」


 フランツは答えた。


「さあ」


 その可能性が高いだろう。


 ジナイーダの経歴はよくわからないが、会話からズデンカと親しいらしい様子は読みとれた。なら、ズデンカを探しに行くことは明白だ。


「あ、ジナイーダさまなら、何かあったらズデンカさまに知らせにいくと言づてがありましたよ」


 キミコがおずおず手を上げて言う。


 やはりフランツの見立ては正しかったようだ。


 それにしてもほとんど初対面のキミコに伝えるとは。『仮の屋』にいるなかでは年格好が一番近いので話しやすいと思ったのだろうか。


 ズデンカとの合流が先決だが伝える方法が思い付かない。


「どうすればいいだろうか」


 フランツはため息を吐いた。


「それなら、伝書鳩はどうでしょう」


 フランツの腕の間からひょっくり顔を出してメアリーは言った。


「なんだよ。元気になったのか」


 とは言え、まだ多少涙声だ。


「まだちょっと。だからこうしていてください」


 メアリーはがめつく答える。


「じゃあ頼む。いつ離れてくれるんだ?」


「もうちょっと」


 そのまま十分経過。


 林の深くに移動したため、カミーユにすぐには見つからない場所に来たとは思える。だが、現在ルナの保護者とも言える存在のズデンカと合流しないことには何とも話が始まらない。


 かつてはあれだけルナの傍にいれることを妬んでいた存在に今は早く戻ってきてくれと願っている。


 それに今のフランツはメアリーの存在で頭がいっぱいだった。


「もういいです」


 メアリーはフランツから離れると、小さな笛を取り出して吹いた。


「近くにいてくれればいいんですけどね」


 パタパタと羽ばたきが聞こえ、白い鳩が何羽も空から舞い降りてきた。


「これでお前は情報を集めていたのか……いつのまに?」


 フランツは驚いた。


「まああなたの知らない間にですよ」


 メアリーは余裕を取り戻していた。フランツはこの女にさきほどまで好きといわれて泣き疲れていたのが信じられない。

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