表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1071/1235

第九十七話  妖翳記(5)

 メアリーはぴしゃりとはねつけた。


「まあいいか。俺もやつに協力を頼むのはむずかしいと思っている」


 フランツは言った。


「そうでしょう。ミス・ペルッツの幻想を実体化する能力があればうまく防衛出来ます」


「でもうまく出来るかな」


 ルナはパイプを吹かしながら言った。


「やれるだろ」


「まあできないことはないけどね。ここが襲撃されるイメージが涌かないから」


 ルナは飽くまで暢気だった。


「確実に襲撃される。いつになるかは知らないけどな。ズデンカが早く戻ってくりゃいいんだが」


「ウチのメイドは優秀さ。すぐに帰ってくるよ」


 ルナはだいぶんズデンカを信頼しているようだった。


 フランツは微かにだけ嫉妬の疼きを覚えたが、すぐに押さえ付けた。


「まあ用心して置くに越したことはないですよ。ミス・ペルッツがここに住んでいると言うことは世間に知られているわけですし」


 メアリーは言う。


「まあここはすぐに発つ予定だからなあ」


 ルナは言った。


「発つ? どこへだ」


「さあ、足の向くまま気の向くまま綺譚おはなしを求めてどこへなりでも」


 ルナは唄うように答えた。


「お前は命を狙われているんだぞ」


「それは前から同じさ。というか前わたしを追っていたカスパー・ハウザーはわたしを捕らえようとしていた。今のジムプリチウスはどうか知らないけどわたしから全部を奪うと言っている。なら死なれたら困るだろう。つまりわたしの命は狙われてないんだよ」


 ルナは今日は調子がいいのか、言葉が回るようだ。


 フランツはルナをハウザーが捕らえようとしていたことを初めて聞いた。というか二人が具体的にどんな接触を持ったのかも知らなかった。


「パヴィッチだな。お前とハウザーの間に何があった」


「何がって、まあいろいろあったよ。わたしがハウザーに実際に捕まっちゃうってこともあったね。でもメイドの働きで助け出された。ハウザーと対決して葬ったよ。正確にはハウザーにとどめを刺したのはジムプリチウスだけど」


 初耳の情報ばかりだ。フランツは驚いた。


「お前がハウザーを殺したのか?」


 ハウザーがルナに殺されたという真偽不明の情報は入手していた。列車に乗った際スワスティカの残党の亡霊と遭遇し、そいつらが喋っていたのだ。しかし確証はなく、本当かどうかは疑っていた。


「うん。結果的に殺した。わたしは多く殺しを重ねてきてるし、罪は罪だけど。でも、ハウザーがいなくなって楽になったとこはあるかないや、正確にはウチのメイドなんだけど、わたしも少し協力したかなって……感じ? まあ実際色々助けて貰ったんだけど……ふふふふふふ、これ本人の前じゃ言えないな」


 ルナは少しにやけながら語った。そういう笑い方はあまり見たことがないのでフランツは気になった。


「ハウザーの脅威は本当に去ったんだな」


 フランツは感慨深く思った。スワスティカの仲でも超大物の危険人物だ。その存在が消滅したということは猟人にとってはよみすべきことなのかも知れない。


 しかしそれが同じく猟人に追われる身のビビッシェ・ベーハイム――ルナ・ペルッツ――によって行われたということがなんとも複雑な気持ちにフランツをさせるのだった。


「しかし、俺は知っている。カミーユ・ボレルは確実にお前を追っている。そして、カミーユはジムプリチウスと繋がりがある」


 フランツは前も言ったことを繰り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ