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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十七話  妖翳記(4)

「何か話したか?」


「別に、俺が夜になると虎に変わるってぐらいかな」


「重要な情報だろうが」


 フランツはズッ転けかけた。


――虎に変わる? 狼人間リカントロープの亜種か?


 月夜になると狼に変わる存在がいることはフランツは知っていた。


「よっ! 人間!」


 後ろから肩を叩かれてフランツはビックリした。


 いつの間にかどこかに消えていたハロスが現れた。


 たしか、そんな名前だったはずだ。


 メアリーが確認していないということは、短期間だけ屋敷を出ていたのか?


――ともかく信用出来ない。


 牙がしっかり見える当たり吸血鬼なのだろう。


 しかしフランツがドキドキするのは着崩した開衿シャツから胸の谷間を見せていることだ。


 周りにそんなラフな――いやずぼらな格好をした女が少しもいないこともあり、ハロスの登場はセンセーショナルなものだった。


「どこ行っていたんだ?」


「おやおや、ガキ? どこ見てるんだ」


 物凄い速さでフランツは後ろに回り込まれ羽交い締めにされていた。


 抵抗出来ない力だ。ハロスの胸が、フランツの背中にあたる。


 鼓動が早くなった。


「おい、人間。お前もしかして?」


 嘲るようにハロスが言った。


「そのまさかだ。何か悪いか?」


 フランツは恥ずかしさを堪えながら言った。


「いやあ、悪くねえがよ」


 ハロスは少し戸惑っていた。根は悪くなさそうだ。


「俺はフランツ・シュルツだ。名前で呼べ」


「人間に名前は不要だろ。どうせ俺に血を吸われるんだ」


「俺を食う気か?」


「さあな、少しづつわけて食ってやるかもな。お前もまだまだこの世にみれんあるだろ」


「フランツに触るな」


 ファキイルだった。ハロスを睨み付けている。


「ゲッ、お前は」


 ハロスはたじたじとなった。さすがに犬狼神を相手にしてはハロスも叶わないのだろう。 ズデンカが不在な以上、ハロスを止められるのはファキイルぐらいしかいない。


 しかし、またフランツはファキイルに助けて貰うことになってしまった。


  ハロスはフランツから離れる。その表情には怯えの色が浮かんでいた。


 吸血鬼はファキイルの姿を見ただけでその威を感じるのだろう。それは本能的な恐怖に違いない。


 部屋の中からバルトロメウスが出てきた。まだ虎にはなっていない。


「やれやれ。喧嘩はもうお終いか? じゃあ下に降りさせて貰うよ」


 のそのそとフランツの横を移動して下に降りていった。


「フランツ、行こう」


 ファキイルも続いた。フランツは付かず離れず着いていった。


  ハロスだけがしぶい顔で後に取り残されていた。


――しばらく放って置くしかないか。


 強力な吸血鬼は味方に付ければ頼もしいが今の段階だと難しい。


 フランツが食堂に戻るとジナイーダや他の面々も揃っていた。ハロス以外はだ。


「上階にハロスという吸血鬼の女がいた。お前数えていなかったな」


 げんなりしながらフランツはメアリーに言った。


「戦力になりそうですか?」


 あくまでメアリーは現実的だ。


「羽交い締めにされたが、抜け出せなかった。とてもじゃないが勝てそうにない」


「ふうん。そうですか」


 メアリーの顔が少し緩んだ。


「強いがとてもじゃないが俺は御せない。ズデンカがいれば話が別なんだろうが」


「いいでしょう。なしでも戦えます」


 メアリーにしては果断な選択だ。


「お前なら何とかして味方に付けようというと思ったけどな」


「説得が不可能な相手を説得するのは無駄です」

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