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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十一話 詐欺師の楽園(10)

 言葉はあまり交わさなかったけど、一緒に遊んだ経験は大きかったね。収容所暮らしが長過ぎたんで、しばらく、そんなことやってなかったから。


 姉が出来たようで楽しかったんだ。


 普通の子供と同じだよね。


 隅っこで遊んだよ。遊びの道具は一式揃っていたからね。


「さあ、おいで」 


 実験室の鎧戸が開かれた。中からは開けられないようになってたんだ。


 ハウザーに連れられて、少女が入ってきた。わたしよりも背が低くて、頭が見えるくらいだった。


「初めまして」


 少女はぺこりとお辞儀をした。名前はビビッシェ・ベーハイム。


 きっと、君たちも知っている。もちろん、あまり良くない印象で。でも、世間に知られるちょっと前の話だ。


 わたしと同い年だった。


 がりがりに痩せている。つまり実験室に来る前のわたしとほとんど似たような容姿だったわけだ。


「今日からルナはお姉さんだ。ビビッシェ、君は妹になるんだよ」


 そう、ハウザーは言った。笑顔を張り付かせたままで。


 その姿をよく覚えている。


「よろしくお願いします」


 礼儀正しい子だった。ステラとはぜんぜん逆だ。


 でも、なかなか心は開いてくれなかった。


 こっちだって人見知りだ。姉になれなんて言われてすぐなれる訳がないよ。


 一緒に食事をとり、一緒のベッドで寝た。まあそう命じられていたからだけどね。


 普通の姉妹がするのと同じことをした。


 人間って奇妙だね。共にご飯を食べた人間のことってなかなか忘れられない。特に幼い頃であればなおさらだ。


 赤の他人で居心地の悪いやつだったのに、いつしかいないと寂しい相手になるのさ。


 だからビビッシェの顔に初めて笑いが灯ったその時のことはよく覚えている。


 パンを食べていてね。


 並んで同じように食べてる姿を見て思わず笑っちゃった。


 つられてビビッシェも笑った。


 ほんのちょっとだったけどね。


 唇の先がちょっとあがったぐらいだ。


 わたしはそれを、見逃さなかった。


 まあ、本当の姉妹とまではいかなかったけどね。


「わたしには父さんも母さんもいません」


「なら、それはわたしも同じだね」


 境遇の類似が、自然と近づけたのだろうね。お互いの話を、あまりするでもなく分かり合えたのだから。


 でも、あの日が来てしまった。

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