表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1068/1235

第九十七話  妖翳記(2)

「うーん……あんまりいないね。大勢で攻め寄せられると逃げるしかないかも知れない」


 ルナは悪戯っぽく言った。


「逃げることも考えに入れている。脱出路はあるだろ」


「いちおう作ってるけどね。この書斎からでも『仮の屋』の外へ出れるようにしてもらっているよ」


「どうやって移動するんだ」


 フランツが訊いたこともない話だった。


「そこの窓を開けて出るのさ」


 指差しながらルナは笑った。


「窓からって、あたりまえだろうが!」


 フランツは怒鳴った。


「ほらほら、君はそうやってすぐ怒るからついからかいたくなるんだ! 昔からそうだったよね」


 ルナは言った。


「いざとなれば、こんな窓潰して進みますよ」


 メアリーは仏頂面で言った。なぜここまで腹を立てているのか、フランツには解しかねた。


「それは怖い!」


 だがルナはあきらかに恐がっていなかった。


「何が起こるかわからない。ルナも書くのは止めて食堂に移動しよう。あそこは無駄に広い。武者溜りにはもってこいだ」


「そうだね。フランツの言う通り、移動しよう。よっこいしょ」


 ルナは立ち上がった。


「何を書いてるんですか?」


メアリーが訊いた。


「ちょっとした雑文さ。一応鞄に入れて持ってこう。もし逃げることになったら、回収している暇がないからね」


 ルナはくちゃくちゃと紙を纏めて鞄に突っ込んだ。


「俺が入れる」


 フランツは几帳面に紙を取り出してまとめ、鞄に入れ直してやった。これも昔よくしていたことだ。


「何でもやってあげんですね。子供じゃあるまいし、本人に任せればいいのに」


「ルナはそれが出来ない人なんだ」


「そんな心外だ! わたしだってちゃんとやればできるよ! これぐらい!」


 ルナは子供のように怒った。


「さあいくぞ」


 フランツはルナの鞄を持って歩き出した。


「待ってよお!」


 ルナが叫びながら尾いてくる。


 全くよくもまあこんな大きな子供のように育ったものだ。金に苦労しないからということもあるだろうが、これはルナの個性のように思った。


 一文なしだろうがルナは相変わらず子供のように違いない。


「まったく、殺したくなりますね」


 いつの間にか横を歩いていたメアリーは物騒なことを言い始めた。


「おい!」


 フランツは焦った。


「シュルツさんも殺そうとしていたんでしょう?」


「だが、今ので何か怒る要素あったか?」


フランツは焦って言った。


「わからないんですか?」 


「まったくわからん」


「ならいいです」


 メアリーはそっぽを向いた。


――何なんだ。こいつ。


 最近のメアリーは少しおかしい。いや、フランツもおかしいのだ。


 戦いの疲れが出てきたのだろうか。


 食堂に行くと、オドラデクがキミコに絡んでいた。


「もっと料理作ってくださいよ、ねえったらねえ」


 キミコは顔を仕掛けて距離を取り続けていた。唾を飛ばされると思ったのだろう。オドラデクは生き物ではないので出ないとは思うが……。


「ルナさまの許可を得ないことには……それに私は料理が得意では……」


「どしたの? ねどしたの?」


 ルナがピョンピョン飛び込んできた。


「あ、ルナさま。こちらの方が……料理をご所望で……」


 キミコは怖ず怖ず説明した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ