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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(9)

「二番目のお願い、ヘンリクさんの死を見せる、を叶えて上げました。それでは最後のお願いに移りましょう……」


 突然、ボグダールカは床に刺さったナイフを抜き、カミーユへぶつかってきた。


「なんでそんなことするんですか? あなたは心から望んでいたでしょう?」


 しかし、カミーユはボグダールカの足を蹴飛ばしすっ転ばせる。


「最後のお願いはあなたと、ヘンリクさんを合体させることです。『人獣細工』としてね」


 カミーユは微笑んだ。


 そしてボグダールカの首の肉を優しくえぐる。血が噴き出した。


「あああああ、どんどん汚れちゃってく。グラフスさん怒るだろうなあ。まあ怒ったとして無視すればいいだけだけど」


 カミーユは懐を探って、前ティークで入手したアーロンという名前の男の肉片を取り出した。


 ヘンリクとボグダールカの遺体から服を剥ぎ取って裸にし、その背骨から真っ二つに肉を裂いた。


 そのなかに二つにわけたアーロンの肉片を入れ、二つの遺体を背中合わせにする。

 

 カミーユは意図的に『心臓』をここに持って来てなかった。


 ジムプリチウスが知れば激怒するに違いないからだ。


 だがカミーユは『人獣細工』をどうしても増やしたかった。


 ルナの『仮の屋』を襲撃するにはアーロンという弱い男の肉片だけでは心細い。


 実際肉片は、二人の遺骸を餌にして見る見る膨れ上がった。


 たちまちにしてどす黒く紫色に染まり始めた四足は互い違いからまりあって床を踏みつけながら移動する。


 部屋の外へとひた走っていく。


「まだ待って。あなたは私が合図するまで動いちゃいけない。ここで待機しているんだよ」


 カミーユは妖精と同じように人獣細工にも支持を出せるようにしていた。自分の髪の毛を植え付けたのだ。


「なんか私もグラフスさんみたいになってきた」


 カミーユはおかしかった。


「さて、『夢みる人たち』の元に戻るとしますか」


 カミーユは一人だけ小屋を抜けだした。


 カミーユはかなり血に塗れている。しかし幕の下の闇の中では誰も気付くものはいない。血の臭いすら誰も気にならないのだ。


 象に虎、古今東西の生き物。皆ほど良く調教されており、調教師の言葉に従う。


 昔と何も変わらない。ただ少しだけ派手にはなっているか。


「なんや……っておま」


 グラフスはすぐ異変に気付いたようだ。


「すみません。またっちゃいました」


「だっ、誰をやったんや? まさかあそこにいた男か」


「まあそうです。少し時間を掛けたかもしれませんね」


 一時間、いや二時間近くは経過していただろう。


「おれがせっかく勝手やったのにまた汚してしもうたやん」


 怒ると見えてグラフスの表情に表れたのは呆れだった。よく考えると、人の表情はあまりよく見わけることができないカミーユでも、グラフスは簡単にわかる。


 生き物ではないからだろう。


「すみません。今度は私が払います」


「その姿やと街中で目立つで?」


「夜になるまで待ちます」


「夜になるまでまだしばらくあるやん……」


「テントの外に小屋があります。あそこを潜伏場所にしましょう」


 カミーユは言った。


 そして観客たちの顔を眺めた。なるほど、夢みる人々とはもう一つの人格は良く形容したものだ。皆舞台の方を眺め、うっとりとした表情になっている。


 殺人が舞台裏で行われたこと、そして犯人が死臭をまとわせながらなかに入ってきたことなど少しも知らず、夢に酔い痴れている。


カミーユはまた殺したくなってきた。しかしここは我慢しなくてはいけないようだ。

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