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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(7)

 カミーユは相手の話をねじ曲げる。


 相手の脳内に入り込み、偽の記憶を作り出す。


 妖精たちは皆そういう能力を持っている。ルナ・ペルッツの能力とも少し似ている部分があるのかも知れない。スワスティカによって改造されたのだから、多少は似てくるものだろう。


 今ボグダールカの頭の上にはムッシュ・ドゥ・ラルジャンティエールが現れ、ふにゃふにゃと揺れながら触手を伸ばしているが、ヘンリクもボグダールカも気付かない。


 妖精たちと頭脳の感覚が繋がっているカミーユはすぐにボグダールカの記憶を閲したが、しかし、改変するまでもなく、ヘンリクに対する歪んだ感情の元を突きとめた。


「面白いですね」


 カミーユは呟いた。


「あなたはやたらとヘンリクにこだわってますよね。こんなところまでついて来ちゃったりして。好きなんでしょ。でもヘンリクはあなたに興味ない。だから苦しんでいる。悲しい」


 カミーユは人の心を読むのが苦手だ。しかし妖精たちのお陰で手にとるように知ることができる。


「え、何言ってる? カミーユちゃん? あたしがそんな素振りいつ見せた? 何も話してないよね。デタラメはいい加減にしてよ。そんな、あたしがヘンリクを好きなわけないでしょ?」


 ボグダールカは明らかに動揺していた。青い炎だけがカミーユが見ることが出来た。此は怒っているのではなく、怯えているのだ。


 心の裡を見透かされたことに怯えているのだ。


 この愚鈍と呼ばれてもおかしくはないほど人の心がわからないナイフ投げに。


「絶えず見せていますよ。さて一つ目のお願い、あなたの本当に思っている明らかにする、は叶えて上げました。それでは二つめの願いにいきましょう」


 カミーユはナイフを投げた。


 ぐさりとその白刃はボグダールカの太腿に突き刺さった。


 形容し難い絶叫が鳴り響く。


「あ、この小屋は妖精さんたちによって封じさせて貰いましたから音は洩れませんよ。存分に叫んでくださいね。ふふふふふふ」


 カミーユは笑った。


「カミーユ、君は……」


 ヘンリクの声は震えていた。


「ごめんなさいね。これがほんとうの私なんです。あなたに見せていたのは私が作り出した偽りの人格です。もうすぐ亡くなる方なので全てお話ししておきますけどね」


 カミーユは他人行儀な口調で話した。


「もうすぐ……?」


 ヘンリクは困惑しているようだった。


「面白い話を引き当てました。ボグダールカさんは、寝ているヘンリクさんの耳を舐め始めていたようですよ。それぐらいで留めて置けばよかったのにー。ペロペロペロペロ、全身を舐めて舐めて――ああ、そしてあんなところまで! ヘンリクさん、変な気分で起きたことはありませんか。きっと記憶になるでしょう? 寝ていても機能するものは機能しますからね。ほんと、卑劣な陵辱者ですよ。こんな人ルナさんなら征伐するに違いません。ズデンカさんだってそうですよ」


 カミーユはそう言ってナイフをまたボグダールカの太腿に突き刺した。


「やめて、やめてよ! カミーユ!」


 ヘンリクも泣き叫んでいた。


 柔弱な男だ。なぜもう一人の人格はこんなやつが好きだったのか。


「あなたを勝手に好きになって、勝手に犯していた相手にずいぶんと甘いんですね」


 そう言ってカミーユはまたナイフをボグダールカの腕に突き立てた。


 ボグダールカは叫びを上げた。


「やめてよ、やめてあげて!」


「じゃあ、それならあなたが代わりになりますか? 代わりにナイフの的になりますか?」


 カミーユは嬉々として質問した。

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