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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(6)

「観客は夢をみにサーカスに来ている。だからせいいっぱい技を磨きたいんだって言ってたんだ。ほんと感動したよ。だから、僕も夢をみせたいって思い始めたんだ」


 青の炎と赤の炎がない交ぜだ。ヘンリクの感情は複雑なのだろう。


 おそらく涙を流し、感極まって言っているのかもしれないが、カミーユはもうわからない。


「凄いね。私そんなこと言ってたんだ」


「カミーユは凄い人だよ。ほんと、尊敬してた。でもいきなり何も言わず出ていっちゃった。手紙でも送ってくれればよかったのに」


「ごめんね。でもどこにいるかわからなかったし」


 これは嘘ではない。


「そうだよね。僕らは定住しない。だから一度と離れてしまえば、また会おうとしたら運を天に任せるしかなくなる。あんなによく会えていた日々が嘘みたいだよ」


 ヘンリクは懐かしそうだった。


 カミーユは退屈だった。


 早くナイフを使いたい。


 切り裂きたい。そればかり考えていた。


「たぶんオルランドとかトゥールーズとかの大きな町でよく公演していたからだよ」


 カミーユは飽くまで冷静に答えた。


「カミーユとあえてホントに嬉しい。今日はホントに幸せだなあ」


 カミーユは遠くの星に住んでいる人を見るようにヘンリクを眺めた。


「のろけは良いからさっさとナイフを投げて」


 ボグダールカはケラケラ笑いながら磔台に向かおうとした。


「待ってください」


 カミーユは歩いていった。


「私が乗ります。だからヘンリクが投げて」


「えっ」


 ヘンリクは驚いた。

 

 カミーユは何も言わず横になりベルトを身につけた。


「投げられる側にもなってみたいと思ってね」


 そう言えばあれだけナイフを投げてきたカミーユは自分が的になったことが一度もなかったのだ。


 試してみたくなった。


「ヘンリクなら投げられるでしょ?」


「も、もちろんだよ」


 ヘンリクは手を震わせながら、地面に無数に刺してあったナイフを抜いて、投げつけた。


 ナイフは見事にカミーユの顔の横に刺さった。


 すっと頬から血が流れた。薄く切れたようだ。


「あ、ごめん、そんな! 傷付けるつもりなんてなかったんだ!」


「別にいいよ」


 カミーユは少しも恨んでいなかった。


「さあさあ、こういうのはあたしのほうが慣れてるんだよ。カミーユちゃんはどいて」


 ボグダールカが急かしてベルトを外し、カミーユを退けた。


「……」


 失態を隠すようにヘンリクは何度もナイフを投げた。ボグダールカ相手なら躊躇うことはないようだ。


「それじゃあ、私に変わってよ」


 カミーユは静かな声で言った。


「ああ、そうだね。僕が投げ過ぎちゃったね。じゃあ僕は」


 と言ってヘンリクは退く。


「それではボグダールカさん。改めてよろしくです。私はあなたに話を聞きたいんです。そして、お願いを三つ叶えたい」


 カミーユはトランプを取りだして繰り始めた。


「え? 話? 何もないよ、色んなところを旅して回ってきて、そりゃまあ悪い男に引っかかったりいやなことはあったけどそんなん誰でもあることだろ?」


「なるほど、興味深いお話ですね。それでよしとしましょう」


 カミーユはもうめんどくさくなっていた。よくある話で十分だ。カミーユは勢いよくカードを動かした。


「それではあなたのお願いを叶えましょう。ボグダールカさん、あなた、ヘンリクのことが好きですね? 一緒になりたいと思ってるんじゃありませんか?」


「へ?」


 ボグダールカはきょとんとした顔になった。 

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