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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(5)

「まあ、たしかにカミーユさんは反応薄めねえ。ヘンリクくんの方が熱心な感じ」


「そんなことないよ!」


 ヘンリクは焦った。カミーユがもう一つの人格の記憶をたどる限り、ヘンリクはカミーユに飽くまで友達として接していた。もう一つの人格のほうが一方的に好きだったようにも見える。


 今は逆だ。時間の経過が関係を変えたのだろうか?


 カミーユにはよくわからない。


「と、とにかく、こんな場所にずっといるのもむさ苦しい。外に出よう」


 ヘンリクは立ち上がり、カミーユを急かした。他のメンバーがなかに入ってきたことも関係していただろう。


 テントの外へと歩き出していく。


 カミーユは素直に尾いていく。


 なぜか、ボグラールカも一緒に来た。


「何で来るんですか?」


 ヘンリクは焦っていた。


「二人の行く末を見守ろうとね」


 ボグラールカは不敵な笑みを浮かべて言う。


「僕らは練習に行くだけですよ」


 カミーユは退屈だと感じていた。思った事は口にする性分のため、我慢するのが大変だ。この二人をどうやったら殺められるかを考え始めていた。


 実際、『人獣細工』をより強いものにするためにはこの二人の肉も多少役に立ちそうだった。


「練習するんなら的がいるじゃん。あたしがなるよ」


 ボグラールカが主張する。


 太陽の光が差して来た。暗めのテント内から出て、目が慣れるまで時間が掛かるため、カミーユはあまり良い気分になれなかった。


「練習は今どこでやってるの?」


 カミーユは聞いた。


「あそこだよ」


 テントが設営されている広場の隅にある、木造の小屋を指差した。


「誰も使ってないらしいから、ナイフ投げの練習が出来る場所として貸して貰っているんだ」


 ヘンリクは説明する。


「ふうん」


 カミーユは言った。


 三人は小屋のなかに踏み込んだ。想像以上に綺麗に清掃されている。広場の管理者がやったのか、ヘンリクがやったのかはわからなかったが。


 磔台が設置されている。ナイフの痕が無数についていた。


「練習してるんだね」


 カミーユは台に近付いて痕を撫でた。


「うん、一日百回は投げてる。ボグラールカさんにも協力して貰うけど、毎度は流石に悪いから公演前だけだ。それぐらい頑張らないと。カミーユは凄いよ。どれだけ自信なさそうにしてても百発百中なんだから」


「そんなことないよ」


 カミーユは控えめに答えた。


 実際には百発百中だ。


 目をつぶってもかなりの精度であてることが出来る。


 もう一つ人格は明らかに戦闘力を落としていた。これは本来の姿に気付かれないための工夫でもある。


 実際誰もカミーユの本当の性格について気付かなかった。


「僕は……頑張らないと行けない。サーカスを見に来る人々、夢みる人々のために、いちばん良い技を見せないといけないから」


「夢みる人々?」


 その言葉をカミーユはどこかで訊いた覚えがあったが思い出せなかった。おそらくもう一つの人格の記憶だろう。


「え、君が言ってくれたことだよ! 覚えてないの?」


 ヘンリクは残念そうな顔をした。


「ごめん。でも本当に記憶がなくて……」


 本当に大事な記憶に関してはもう一つの人格が共有を拒んでいるのだろうか? カミーユはそんな気がした。

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