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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(4)

「そうだったね。ヘンリク、久しぶり」


 カミーユは砕けた口調で答えた。


 本来カミーユにとってヘンリクは知らない人なのだ。何でそんな詳しく知らない相手に対して、親しげな口調で話さなければならないのだろう。


「前『月の隊商』の人たちと会ったんだけど、カミーユは出ていったって言われたんだ。どこかは教えて貰えなかった。たぶん皆知ってるけど言わなかったんだろう。団長に配慮して。本人に聞けば良いのかも知れないけど、バルトルシャイティスさんは偉い人だから話し掛け辛くて……」


「へえ、そうなんだ」


 カミーユは気もなく答えた。


 やはり、つまらない。


 カミーユはヘンリクの顔が見えなくなっていた。赤いような青いような炎が揺らいでいる。


 さっき舞台にいたときは顔が見えていた。見えないことが多いのに、やはりもう一つの人格の影響だろうか。


「かなり印象変わったね。前はもっとなんというか……お喋りだったような。それに声ももっと高かったし」


 そうなのか、自分はそう言う風に見られていたのかとカミーユは思った。確かにもう一つの人格は話したがったのだろう。特にヘンリクとは。


 だが、本来のカミーユはもう話したくない。出来るならば戻りたいと思っている。


「たぶん、旅で疲れているんだよ」


 カミーユは適当な説明を思い付いた。


「そ、そうだよね。いろんなところ歩いてきたんだろうね」


「ルナ・ペルッツさんと一緒に旅をしてたんだよ。知ってる?」


 別に隠し立てすることでもないのでカミーユはばらした。


「あ、なんかその人聞いたことある。本持ってた気も……」


「有名だよ。まあ悪い噂も広がってるけどね」


「それも聞いたことある! 人を殺したとか……でもあんな有名な人が……まさか」


 ジムプリチウスのまいた種は十分に広がっているようだ。


「一緒に旅していたからわかるけど、ルナさんはそんな人じゃないよ! とても優しい人だよ!」


 カミーユは飽くまで反発するふりをした。これが思った以上に労力がかかる。少し怒った様子も交えた。


「そ、そうなんだ。一緒に旅してたんだから、それはカミーユのほうが正しいよ! 僕が聞いた噂が間違ってたんだ!」


 ヘンリクは必死になって否定した。


「ヘンリクったらほんとウブ」


 隅で見ていた美女が笑いさざめき始めた。こちらはカミーユはほぼ顔を識別できない。

 美女と思ったのは、ナイフ投げの的役は決まって美女と決まっていたかるだ。ただ、カミーユが投げる際は逆に男であることが多かった。


「この人はボグラールカ……さん。最近入団してきて的役を買って出てくれたんだ」


「初めまして、ボグラールカさん」


 カミーユはお辞儀をした。


「初めまして。流れ流れて流れ者だけど、よろしく。カミーユさんだよね。ヘンリクくんとはどんな仲?」


 サーカスの団員は多国籍だ。どこから来たのかわからないものたちはたくさんいる。ヘンリクは北部トルタニアのヴェーソスの生まれで、ボグラールカもおそらくは東部トルタニアのどこか出身だろう。


「友達です」


「ホントにそれだけ?」


 ボグラールカの声はツヤがあった。


「ちょっと、ボグラールカさん! 止めてくださいよ」


 ヘンリクはかなり焦り始めた。


「でも、かなり前からの付き合いなんでしょ? ヘンリクくん、いろいろ女の人の相手をしてるのに浮いた噂が全くないんだよ。ひょっとして意中の人がいるのかも知れないって思ってたんだけど……ふふふふふ」


 ボグラールカは微笑んだ。


「そんなんじゃないって、ほんとにカミーユはただの友達で!」


 ヘンリクは慌てて否定した。

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